スイスに学ぶ国民向けの避難シェルター~
スイス政府発行『Shelters』内容紹介(第5回)

2023年10月23日

当協会のスイス特派員Hans Muller氏よりスイス連邦市民保護局(FOCP)から発行された『Shelters』という小冊子が届きました。『Shelters』は設計士や建設会社向けに出されているTWPやTWKなどのスイスの建築指針とは異なり、一般市民向けの全16ページで構成される平易な小冊子です。

副題に「その目的、建設、活用について」と付いているとおり、シェルターの啓蒙活動の一環として作成されている小冊子になります。全5回にわたってその内容を紹介していきますが、今回は第5回目です。( 関連:第1回、 第2回、 第3回、 第4回

スイス政府発行『Shelters』

スイスでは全国民と永住権保持者にはシェルターが割り当てられる

最終章は「シェルタースペースの割当とシェルターへの避難」です。スイスでは自宅にシェルターが設置していない場合、公共のシェルターが割り当てられます。まずはこの割当計画についての記述になります。

脅威が発生した場合、当局は住民に情報を提供し、シェルターへの避難を命じる。各州及び地方自治体は平常時においてそれぞれシェルターへの割当計画を策定している。一般市民は非常事態に際して非常物資の調達と緊急時対応策を策定する必要がある。

●現在の割当計画
各州及び地方自治体は、シェルターの割当計画を立案し、定期的に更新する義務がある。シェルターの割当計画は、必要な情勢になった時に発表される。各州政府、及び各地方自治体はウェブサイト、掲示板、郵送、あるいは直接本人(民間防衛組織経由)に当該情報を提供する。

このように、スイスでは誰がどこのシェルターに入るのか決まっていますので、『北斗の拳』のように、トキがシェルターに入れない事態などは起こりません。スイスが舞台であれば、北斗神拳は無事トキに受け継がれますので、ケンシロウの出る幕はありません。

いきなりシェルターに逃げ込むのではなく、避難までは充分な時間がある

次いで、避難命令が発令された場合に関する記述です。

当局が住民に対してシェルターへの避難を命じた場合、どのシェルターに避難するかは当局より指示される。シェルターへの避難には充分な時間が与えられる。

以前の ニュース でも記しましたが、スイスではシェルターに避難するまでのフローがあります。

武力行使の兆候を察知すると、連邦政府が非常事態宣言を発し、同時に非常用サイレンを鳴らして、シェルターへの避難命令が出されます。サイレンが鳴るとテレビやラジオ、あるいは「ALERT SWISS」で国民や永住権保持者は情報を確認します。

避難命令が発出されると各自治体は「ZUPLA」と呼ばれるシェルター割当計画に基づいて、各市民が避難するシェルターの割当はALERT SWISSをはじめ、さまざまな手段で連絡されます。

また、当協会のニュースやセミナーなどで何度も伝えておりますが、スイスの避難では5日間ルールとでもいうべきルールがあります。避難命令が出ると5日間以内にシェルターに逃げ込めるように準備するというものです。非常事態宣言・避難命令発令からシェルターの避難まで、現行ではある程度の時間を取っています。

ただし、5日間ルールは見直しがかかっているそうです。ロシアのウクライナ侵略で、ウクライナで非常事態宣言が出てシェルターへの退避を始めた翌日に、ロシアが「特別な軍事作戦演説」という戦争で言えば宣戦布告を発した故に、より短くすべきではないのかという議論が起こっているそうです。

スイスの避難時の簡単なフローを下記に提示します。なお、Jアラートに相当するのは防空警報になります。

スイスの避難フロー

平時の心構えと有事の行動指針

さて、最終段のくだりになります。

●非常用物資と非常時計画
平時であっても非常時に備えた緊急計画を用意しておく。例えば、どのようにして家族の一員に連絡をするか? どこに行くのか? 何を持っていくのか?非常時の対応策を考えておくことによって、より迅速かつ適切に行動できるようになると考えられる。誰もが数日間にわたって生き延びられるだけの食料を持っている必要がある。武力紛争の場合、非常用物資(特に飲料水と保存食)は前もってシェルター近辺に蓄えておく。

●本当の機器に際して
家を離れシェルターに避難する前にすべきことは

・当局の指示に従うこと

・非常持出品を持って出ること(各個人の身分証明書を含む)

・食料品(特別食及びベビーフードを含む)と必要な医薬品を持ち出すこと

・窓・扉を閉めて電源を落とし、ガスの元栓を閉めて火を消すこと

・近隣住民に連絡するとともに、手助けが必要な住民を支援すること

・ペットはシェルターには連れていけないので、充分な水と餌を用意すること

最後に上記が記されて、この小冊子は終わります。

最初に記しましたが、人口比で100%のシェルターの普及率を誇るスイスであっても、冷戦後は「シェルター不要論」が出ていました。しかし、昨年のロシアのウクライナ侵攻によって、シェルター不要論は吹き飛び、改めてシェルターの価値が見直されつつあります。

そうした中で、スイス政府も改めてシェルターについて解説を行う必要性を感じたのでしょう。それが今回の小冊子に結びついたと言えます。

日本核シェルター協会 スイス特派員 Hans Muller、事務局

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