高知県室戸市津波シェルター訪問レポート~
マルチハザードシェルター構築に向けて
高知県室戸市に日本で唯一の津波シェルターがあるのはご存じですか?
地震発生時に大規模な津波の到来が予想される集落に設けられています。崖地を利用して、トンネルと立坑から構成された避難施設です。収容人数は71人。24時間滞在することが可能となっています。トンネルは幅3m、高さ3.5m、奥行きは33m。その奥に直径2.5mで高さ約25mの立坑があり、螺旋階段で上部に昇ることできます。
(出典:室戸市市役所資料)
津波シェルター近隣には約180名が暮らす集落が広がります。シェルター入口付近の津波水深は10m。津波の想定到来時間は10~20分程度と非常に短い地域です。海岸から山岸までの距離が約50mしかなく、津波緊急避難場所までの避難路は狭く急なため、高齢者は垂直避難が困難な地形ということもあり、高知県が建設しました。
二重の水密扉でシェルター内への浸水を防ぐ
シェルターの入口前には漂流物が津波シェルターに衝突することを防止するために、高さ3.6mの鋼鉄製の衝突防止柱が備えられています。その奥に鉄筋コンクリート製の津波シェルターが設置されています。
津波シェルター手前(海側)には鋼鉄製の衝突防止のための柱が設けられている。
津波シェルターの入口ドアを開けると、その奥に水密扉が二重で設置されています。水密扉とは文字どおり、水密性を担保した扉でして、この扉で水の侵入を防ぎます。この扉を二重に設けることによって、水をシェルター内に入れないような構造としています。
二重に設けられた水密扉を使用することで、シェルター内への浸水を防ぐ。
その奥にシェルター個室が広がります。壁と天井は核シェルター同様、コンクリートの打ちっぱなし。内装仕上げを施していないのは地震などの衝撃による落下防止と思われます。シェルター個室の片側は一段上がっていて、畳でカバーされているので、横たわることも可能です。畳の下には飲用水や食料などが備蓄されています。
この津波シェルターの滞在時間は24時間を想定しています。津波なので、水が引くまで12時間、余裕を見てさらに12時間という時間設定です。奥にはトイレと簡易手洗い所が設置され、その先に螺旋階段があり、上部に移動して、山の中腹に出ることができる。
片側には畳でカバーされた備蓄品所蔵庫兼簡易ベッドが広がる。
畳のカバーを開けば、備蓄品が入っている。
簡易手洗い装置。
簡易トイレ
螺旋階段を昇りきると山の中腹に出ることができる。非常用発電機は排煙などを考慮して上部の地上の塔に設置されている。
津波シェルターは核シェルターとの共通点が多い
日本は自然災害が非常に多く、特に津波による被害は甚大です。水圧はもちろんのこと、漂流物の衝突によって発生する衝撃波も考慮する必要がありますが、津波シェルターはそうしたリスクを考慮した造りになっています。
また、シェルターの入口と地山をコンクリートによって一体化していますが、横坑面壁と地山を一体化した構造を採ることによって津波に対する安定化を図っています。
今回視察した津波シェルターは構造上、核シェルターに通じる点が多々見られました。日本の風土を考慮すると、ミサイル攻撃などの有事に加えて、地震や津波などの自然災害も考慮したマルチハザードシェルターが必要な地域もありますが、今後のマルチハザードシェルターの検討に非常に参考となります。
地域によっては地下シェルターに使用する防爆扉を水密性を担保したものにする必要があり、また構造自体も耐爆性能や耐衝撃性能を備えているだけにとどまらず、水密性能を備えた形にすることが必要です。そうした意味でも今後のマルチハザードシェルターにとって参考になる構造体です。
なお、高知県の沿岸部には津波シェルターとは別に津波タワーが多く見られました。離れたところからも見えるため、津波が来た場合、どこに逃げ込めば良いのかすぐにわかります。
また、あちこちに避難路の誘導看板が掲げられ、津波というリスクが身近にあることがうかがえました。こうした避難路の案内なども核シェルターの整備時には必要となってきます。今後日本でも地下シェルターが造られていきますが、避難路の案内などを参考にして、運用面の整備も進めていく必要があります。
空港近くにそびえたつ津波タワー。
津波タワーの説明を行う当協会顧問の矢代晴実元防衛大学校教授。
津波タワーから最上部から周囲を眺めると、戦時中に造られた掩体壕(えんたいごう)が見える。掩体壕とは航空機を敵機から隠す格納施設。空港近くに多く見られた。