スイスに学ぶ国民向けの避難シェルター~
スイス政府発行『Shelters』内容紹介(第4回)
2023年10月19日
当協会のスイス特派員Hans Muller氏よりスイス連邦市民保護局(FOCP)から発行された『Shelters』という小冊子が届きました。『Shelters』は設計士や建設会社向けに出されているTWPやTWKなどのスイスの建築指針とは異なり、一般市民向けの全16ページで構成される平易な小冊子です。
副題に「その目的、建設、活用について」と付いているとおり、シェルターの啓蒙活動の一環として作成されている小冊子になります。全5回にわたってその内容を紹介していきますが、今回は第4回目です。( 関連:第1回、 第2回、 第3回、 第5回 )
シェルターはワインセラー、美術・工芸品の保管室…平時のシェルターの使用指針も
シェルターの構造とレイアウトに続いて、平時のシェルターの備えに関する記述が続きます。まず、1987年以来設置が義務付けられている、簡易二段ベッドと簡易乾式トイレをシェルターの所有者は準備すること、収容人数30人以上のシェルターにはトイレ用のブースを常備する必要があることなどが述べられ、次いで平時利用に関する考え方が示されます。
シェルターはワインセラー、美術・工芸品の保管室、遊び部屋、文書保管室等他の用途に使用が可能である。
(略)
シェルターの躯体(床・壁・天井)、防爆扉と装甲扉、吸排気設備に関しては手を加えることは許されない。シェルターの構造や設備・備品を変更、あるいは改造する場合には関係当局の許可を得る必要がある。
スイスでは、実際にワインセラーや美術品の保管室としてシェルターを使用する富裕層が多いそうです。また、証券類を保管するケースもあるようです。言わば「巨大な金庫」としての活用です。これは日本の個人住宅に併設する核シェルターにも応用できそうです。
さて、この記述に続いて、シェルターの所有者はシェルター自体、シェルターの設備・備品の維持を行う義務があることが述べられます。記述の中には、最低10年に1度、当局がシェルターの点検を行うことも記されている。
有事直前のシェルターの準備について
次いで、有事の際のシェルターの稼働について長い記述が続きます。
シェルターの所有者は(当局からの指示があれば)5日以内にシェルターを使えるようにしなければならない。また、当局が避難命令を出した時は割当計画に基づいてシェルターに避難できるようにしなくてはならない。
指示が出たタイミングで、シェルター内の平時に使用している物体を撤去して、設備を稼働できるようにする。必要に応じて民間防衛隊の指示に従う必要がある。
続いて、避難民が移動する前に設備を点検して、良好な状態に保たれていることを確認する旨が記されます。
●防爆扉の作動準備
避難者の出入り、物品の搬入はシェルターの入口を通じて行う。防爆扉はシェルターの保護という目的を果たさなくてはならない。したがって、この両者を行うためにシェルターの入口の準備をする時には、下記の項目に注意する必要がある。
・(平時に)シェルターの出入口に設置している(通常の)扉を取り外す。
・防爆扉のゴムシールが正常であるかチェックする。
・防爆扉が完全に閉まり、ロック機構が正常に動作するか否かを確認する。
(略)
●装甲扉(非常用脱出口扉)の運用準備
シェルターに避難する前に下記項目をチェックする。
・非常用脱出口(または非常用脱出用トンネル)に障害物等がないこと。
(略)※ほぼ防爆扉と同様の記述
●換気装置の稼働準備
換気装置はシェルターの肺に相当する。シェルターに避難する前に下記の項目をチェックする必要がある。
・過圧防爆バルブが自然に閉じることを確認する。
・空気取入口を確認する。必要があれば吸気管のグリルとシャフトカバーを清掃し、空気の供給が確保できることを確認する。
・シェルターの界壁に密封されていない開口部(たとえばケーブルの導管等)がないか確認する。
・換気ユニットの稼働を確認する。
・プレフィルターの清掃を行う。
・結露水受けを空にする。
・換気装置のスロットル・バルブを「フレッシュ・エア・ボリューム(青色のマーク)」に設定する。
(後略)
扉と換気装置のチェック項目、特に換気装置のチェック項目は多岐にわたりますが、点検についてふれられた後、シェルター内部の片づけに関して記載があります。基本的には、避難に関係の無いものはすべてシェルター買いに搬出する必要がある旨述べられています。また、シェルターの真上や近隣には可燃物質を保管することは禁止されている旨強調されています。
シェルターの設備に関する注意事項も記されていますが、記述の中にあるのが「1987年以前に建設された」古いシェルターという表現です。本連載の中でも伝えましたが、スイスでは1982年と1984年にシェルター建設の指針に関して大きな変更がありました。そのため、1986年までは旧基準、1987年以降は現行基準とされています。
かつて1966年規格の日本語版が出版されていて、未だに参照している人もいます。考え方自体は今に至っても同一であり、レイアウトや脱出口などは現在も変更ありませんが、保護構造や設備に関しては変わっています。
そのため、「一部の必要とされる設備が不足している可能性がある」という記述が見られます。さて、次回は「シェルタースペースの割当とシェルターへの避難」についてお伝えします。