求められる地下シェルターの構造と建築基準法などの法的課題

地下シェルター内

近年、度重なる自然災害や世界情勢の悪化により、地下シェルターの需要が高まっています。なぜ地下シェルターなのか?おそらく、災害や戦争を伝えるさまざまなメディアが、被害にあった人々やその悲惨な情景を詳細にかつリアルタイムに、映像や画像で届けられることが大きいのでしょう。

その情景を見れば、地下に逃げ込むことができれば助かるのではないか?という想像にかられますし、実際その中には地下シェルターに避難して難を逃れている人々も映し出されています。

こうした中、日本政府においても地下シェルター整備に向けての動きが出ています。2022年には安保3文書にシェルター整備が明記され、本年(2024年)3月にはシェルター整備に関する初版のガイドラインが発表されました。当協会もこうした政府の動きと連動する形でさまざまな活動をしてまいりましたが、一方でさまざまな課題も出てきており、この解決に向けて現在も取り組んでいるところであります。

さて、当然ですが地下シェルターはシェルターであって、ただの地下室ではありません。ゆえに、求められる構造も一般的な地下室とは大きく異なります。さまざまな課題があると申し上げましたが、実は構造だけでなくその課題は多岐にわたります。

例えば、立地、地盤、備蓄、通信、心理的リスク等があげられますが、本記事ではシェルター先進国スイスの基準を参考に、構造に関してその求められる仕様と、日本の建築基準法などの法規と照らし合わせた課題について分かりやすく解説します。

今後日本で議論が進んでいくことにより、よりブラッシュアップされた日本仕様に発展させる必要があることは付け加えておきます。

地下シェルターの構造と設備

地下シェルターは、リスクの設定をどこに置くかによって構造や設備も変わりますが、基本として考えるべきはCBRNE(シーバーン)と呼ばれる化学兵器(c)、生物兵器(b)、放射線物質(r)、核兵器(n)、爆発物 (e)です。日本の場合はさらに地震や風害、水害などの自然災害が加わりますが、今回の記事の主旨から話をシンプルにするため、このうち核兵器(通常ミサイルも含む)を想定して進めていきます。

構造に関わる主な原則

核兵器や通常ミサイルを想定した場合、まず爆風や地上建造物の崩壊による積載荷重に対抗できなければいけないため、スイスでは爆風による過圧レベルを1バールと設定しています。(1バールについてはこちら

この1バール基準が地下シェルターの構造に大きな影響を与えており、さらに他のいくつかの理由も加味されます。その結果主な原則は以下の通りです。

  • 地下に鉄筋コンクリートで建設する。(厚さ最小寸法300mm)
  • 気密性を高くする。
  • 外殻は土に接する。
  • 上部の建築物は頑丈な構造とする。
  • 燃料・可燃物からできるだけ遠ざける
  • 非常用脱出口を設け、かつ外気取入口とともに位置に注意する。

爆風による衝撃波を考えると地上では直接その影響を受けるため、やはりシェルターは地下にあることが重要です。海外では地上のシェルターはありえません。それだけでは足りず、爆風や地上建造物の崩壊により地下にも強い衝撃波が伝わるため、壁や天井は通常よりも厚さと配筋量を増やした鉄筋コンクリートで造る必要があります。ということも考慮すると、上部の建造物も頑丈な構造にする必要があり、それが難しい場合にはシェルターの天井部をより分厚くする必要があります。

さらに熱風や火災にも耐えられなければならないため、分厚いコンクリートが意味を成します。コンクリートはさまざまな実験から長時間の火災で100㎜から150㎜程度が劣化するという結果が出ており、この意味でも非常に適した材質で、スイス基準では厚さ最小寸法300mmと定められていますが、これは爆風だけでなく、この熱による被害も考慮されているわけです。

そして核兵器の場合は放射線の影響も考慮しなければなりません。実はコンクリートは水分を多く含むため、放射線(特に人体に多大な影響を与える中性子線)を防ぐことができるのです。同じ理屈で、「土」も水分を含むため、シェルターの外殻が土に接することが望ましいとされています。

さらに地下シェルターならではの原則として定められているのは、必ず非常用の脱出口を設けるということ。この脱出口は非常用の出口としてだけではなく、外気の取入口にもなっていることから、崩壊瓦礫が堆積せず、燃料・可燃物を避けた火災の起こりにくい、離れた場所に設置する必要があります。

▼関連動画:地下に鉄筋コンクリートで造る 3つの理由

必要なスペース

地下シェルターは、その規模や条件によっても異なることもありますが、前述の原則を基本にさらに必要なスペースというのがあります。基本的なスペースは以下の通りです。

  • 進入路
  • 気密室
  • 除染室
  • シェルター個室
  • 非常用脱出口

基本的に人が生活をするスペースとしてシェルター個室が設けられます。ここには核爆発による放射線が減衰するまで最低2週間は滞在することになります。また、地下シェルターは第二種換気で正圧するため、シェルター個室の前室として気密室が設けられます。気密室には除染室を設けますが、除染室を別で設ける場合もあり、そのあたりはシェルターの収容人数など規模によって異なってきます。

進入路は階段や長いスロープを設ける場合もありますが、いずれにしても爆風が直接地下のシェルターに影響を及ぼさない構造にすることが望まれます。この進入路は有事の際に上部の建造物の崩壊により、退出ができなくなる可能性があるため、シェルター個室に非常用の脱出口を必ず設ける必要があります。この脱出口も条件によって構造は異なり、垂直式やトンネル式などがあります。

必要な設備

前述した構造に関わる主な原則を厳守するためには、設備も重要になってきます。特に扉と換気装置は設計段階で組み込まなければならず、やり直しができない点に注意が必要です。地下シェルターに必要な設備は以下の通りです。

  • 防爆扉、耐圧扉、装甲扉
  • 換気装置(第二種換気)
  • 発電機、蓄電池
  • 衛生設備
  • 空調、除湿器
防爆扉

防爆扉

耐圧扉

耐圧扉

装甲扉

装甲扉

地下シェルターに使われる扉は、一見して同じような見た目でも役割が異なります。防爆扉は文字通り直接的な爆風の影響を防ぐものであり、その厚さは200mmでコンクリートを流し込んで造られています。耐圧扉はシェルター内部の仕切り扉として使用し、その厚さは100mmで場所によって適宜増減します。

装甲扉は非常用脱出口に使用される扉です。サイズは小さめですが外部に接する箇所のため、その厚さは防爆扉と同様200mmとなります。いずれも鉄筋で組まれた扉にコンクリートを流し込むため、技術と経験が求められます。

こうした重厚な壁と扉で仕上げた地下シェルターは気密性が高いため、外部から新鮮な空気を取り入れるための換気装置が必要になります。下の写真の換気装置はスイスAndair社の製品で、世界中で使用されている換気装置です。下部のタンクのような部分はCBRNE(シーバーン)対応のガスフィルターで、放射線などの有害物質を取り除き、電磁パルス対策も施されています。

換気装置

スイスAndair社製の換気装置

地下シェルターは第二種換気を採用しているため、この換気装置を回すことで自動で排気が行われますが、その際の吸気や排気に使われるバルブや、ケーブルや配管のためのスリーブも防爆仕様である必要があります。

その他シェルター本体とは別に必要になってくるものとして、停電に備えて発電機や蓄電池、トイレなどの衛生設備、エアコンなどの空調や除湿器があります。これらはシェルターの規模や収容人数、平時の利用目的など、条件によって揃える機器の性能も変わってきます。

建築基準法をはじめ法的な問題

これまで地下シェルターに求められる構造や設備について簡単に説明してきました。ここまでお読みいただいた方であれば、これだけでも地下シェルターがただの地下室ではないことが、明確にお分かりいただけたかと思います。

ところが日本では、地下シェルターは現行の建築基準法でも位置づけが不明確になっています。地下シェルターというものは建築基準法のみならず、法的には存在していないのです。これまで国内でも地下シェルターを造る施主は存在しておりましたが、建築の際の確認申請は「倉庫」または「納戸」です。ですが、地下シェルターは居室と非居室の両者の性質を備えた特殊なスペースです。

当協会の核シェルターモデルルームで例えると、スイスの規格に従えば収容人数は16人となりますが、日本では7人と縮小してしまいます。これは建築基準法では、一人1時間あたりの必要換気量は20㎥となるため、導入している換気装置の1時間あたりの換気量から算出すると、こういった結果となってしまうからです。

ちなみにスイスでは、有事の際は一人1時間あたりの必要換気量は3㎥(ガスフィルター使用時)に緩和されます。日本でも有事法制などで特別な措置を実施できるように様々な法制化が必要になるでしょう。また、関連する建築関係の法規や消防法等の法規の改正も含めた環境の整備が必要となってくるはずです。

最後に

地下シェルターは、戦争や紛争、自然災害などの脅威から、国民を保護するための重要な施設です。しかし、その設計や建築には特殊な技術や知識が必要です。また、円滑に運用するためには法的課題も多く存在しますが、日本ではまだ進み始めたばかりのテーマです。だからこそ、正しい方向に進むように当協会としても会員をはじめ、関係省庁や団体と協力しながらこれに取り組んでまいります。

日本核シェルター協会 事務局

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