スイスにおけるシェルターへの避難指針

2023年8月31日

「シェルターにはいつ避難するのか?」当協会に寄せられる一般の方からの質疑でもあります。実は「核シェルター 意味ない」論争の議論のひとつに、Jアラートが鳴ってすぐにシェルターに逃げ込めれば良いが、すぐにシェルターに逃げ込めないし、ずっとシェルターにこもっているわけにもいかないので「意味ない」という論点があります。では、核シェルターが普及しているというスイスはどうなっているのでしょうか?当協会スイス特派員Hans Muller氏に聞きました。

どのタイミングでシェルターに避難するのか?

これまで当協会のニュースでは、断続的に「核シェルター 意味ない」の検証を行ってきました。

まず前提として、武力事態の際にいきなりミサイルを撃ってきて避難指示のアラートが鳴るのではなく、きな臭くなってきた段階で、普通は非常事態宣言が発出されて、避難体制を取ることになります。ロシアのウクライナ侵攻が参考になると思いますので、8月10日のニュースでもお伝えしましたが、再度記します。

2022年2月21日にロシアがドネツクとルガンスクの独立を承認しました。ウクライナの自治体の独立を承認してしまったわけですが、これが武力行使を予感させる事態になります。これを受けて2月24日にウクライナでは非常事態宣言が発せられました。

その翌日2月25日にプーチン大統領が「特別な軍事作戦」演説を行い、その数時間後(2時間半程度後)に空襲が開始されました。武力紛争はいきなり起こるのではなく必ず前兆があり、宣戦布告的なものがあって、その後に空襲という形になります。

通常は武力紛争の兆しを感じたタイミングで非常事態宣言が発せられ、シェルターに避難する合図が出され、避難準備を行います。

スイスのシェルターへの避難フロー

スイスでは連邦政府が非常事態宣言を出すとともに避難命令を出し、それを受けてリスク対象の地方自治体が避難命令を発令します。連絡手段は非常用サイレンです。サイレンが鳴った場合、直ちにラジオ、またはテレビで情報を確認します。あわせて、「ALERT SWISS」(アプリ、またはウェブサイト)で情報を確認します。また、民間防衛隊や警察、消防がラウドスピーカー、メガホン等で地域を連絡してまわります。

「ZUPLA」と呼ばれるシェルター割当計画に基づいて各自治体は避難先を住民にラジオや「ALERTSWISS」で連絡。なお、避難の対象となるのは各自治体に住民登録をしているスイス国籍保有者、及び永住権取得者です。旅行者などはシェルターに余裕がある時のみ対応するという暗黙のルールがあります。

個人住宅や集合住宅に核シェルターが備わっている場合は、核シェルターに避難します。先日ニュースでスイスにおける5日間ルールをお伝えしましたが、避難命令が出ると5日間以内に避難します。

避難する際には、自治体の指示に従って、避難時に必要な非常持ち出し荷物を準備します。IDカード(マイナンバーカードのようなもの)、健康保険証、銀行カードの他に、常備薬や、配布されるヨード錠、懐中電灯、ラジオ、現金などを持ち出します。

長期不在のための戸締りだけでなく、電気・ガス・水道・暖房の元栓を閉める作業を必ず行う、ペットに十分な餌と水を与えて、所在がわかるようにその旨を扉に記載する(シェルターにペットは持ち込み禁止)。なお、避難にサポートが必要な方は民間防衛組織が避難のサポートを行います。

基本は「家族単位」での避難生活

シェルターへの避難手段がない場合、あるいは行き先がわからない場合は、各自治体に設けられている「緊急集合場所」にまずは移動します。

スイス 緊急集合場所のマーク

緊急集合場所のマーク

例えば、Hans Muller氏が住むヴィーデン市には、4か所が緊急集合場所に指定されていて、そのうちのひとつが学校のある場所となっている。

緊急集合場所は、避難命令発令後最大一時間以内に民間防衛組織の要員が配置され、24時間体制で業務を行います。緊急集合場所からまずは安全な地域にある「レセプション・センター」に民間防衛隊の誘導で移動し、「レセプション・センター」で避難住民の登録が行われ、水や食料が配布されます。当局はできるだけ家族や親族全員がまとまって避難・移動できるように配慮することになっています。

なお、スイスは基本的に家族ベースが社会の基本となっているため、避難は家族単位「結婚した男女+子ども」です。特にカトリック系の州では家族単位で移動ということになります。また、公共のシェルターは家族単位で避難するものなので、男女別々の空間に避難するわけではありません(パーテーションやカーテンなどの仕切りはあるが、家族単位で仕切られる)。

スイス 家族単位で避難することを示す標章

家族単位で避難することを示す標章

緊急集合場所の概念は、2017年、2018年にアルガウ州とソロトゥルン州がスイス連邦政府の非常事態に関する要件に基づいて、共同プロジェクト「避難と緊急時のコミュニケーション」を実施し、非常時に対応する計画原則を作成しました。この計画原則によって、事故発生時に予防的かつ大規模な避難を計画するための前提条件を整えました。

武力紛争だけでなく、災害発生時の地域社会の被災住民との最初のコンタクトポイントとして役割を果たす場所であり、例えばインフラが機能不全に陥った場合、当局と住民の情報交換の場としても使われます。この基本概念は市民保護局によってスイス連邦全域に展開されました。

さて、レセプション・センターで避難登録された後、割り当てられたシェルターに家族単位で避難して、敵の宣戦布告、あるいは「特別な軍事作戦」演説のような宣戦布告的な宣言と、その後に来る空襲(空爆)に備えます。

シェルターでの避難生活の指針については、機会を見て、改めてレポートします。

日本核シェルター協会
事務局

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