続・核シェルターの避難指針~事務局より

2023年1月27日

昨日のニュースの続きです。

トキの被ばくは政府の責任?

昨日、『北斗の拳』を例にとって避難指針についてお話ししましたが、本日はその続編です。題して「トキの被ばくは政府の責任?」です。『北斗の拳』ではケンシロウの兄トキが収容人数を超えてしまうため、自ら核シェルターに入らず、そのために被ばくして死を待つという場面があります。「北斗の拳」世代ならばわかる話だと思いますが、わからない方は漫画を読んでください。

北斗神拳の真の伝承者たるトキが被ばくによって死を待たなくてはならなくなるという、物語の核心ともいえる場面ですが、なぜトキが入れるシェルターがなかったのか? が核シェルターにおける論点となります。
物語では、トキは多数の市民(子どもが多い)とケンシロウとユリアを核シェルターに収容するために、自らはシェルターにつながるエレベーター(? 核シェルター建設基準的には進入路と呼びます)に乗らず、そのまま残って被ばくしてしまいます。哀しい場面ですね。

ひとつの核シェルターは収容人数制限がある

核シェルター内は密閉された空間なので、必ず換気装置、それも放射性物質(や化学物質、細菌・ウイルス)を除去する換気装置が必要です。換気装置はその性質上、人数の制限があります。ちなみに、密閉された空間では、厚生労働省が換気の目安として推奨している、一人あたり毎時必要換気量30㎥/人という基準があります。

CO2発生量は0.02㎥/h・人でCO2濃度上限の目安である1000ppmで試算しています。なお、建築基準法では一人あたり毎時必要換気量は20㎥/人でして、CO2発生量を0.013㎥/h・人で算出しているためです。これは寝ているときなどの人間がほぼ活動していない状態ですね。厚生労働省基準は軽作業時です。より厳しい基準に沿った方が安心です。

それはともかく、換気量の関係で核シェルターは収容人数が決められています。上限を上まわってしまうと酸素濃度が落ちて人が死んでしまうため、トキが収容できないのは理にかなっています。核シェルターの専門的知識を持っている者としてはリアリティあふれる描写だと思います。さすが武論尊先生、原哲夫先生!非情に思えるかもしれませんし、少年時代のわたしも「ひどいな」と思っておりましたが、この描写は仕方ありません。

地下シェルター

トキの被ばくは誰の責任?

では、本当にトキが収容できなかったことは正しかったのでしょうか?ここからが本題です。まっとうな政府であれば、市民が収容する核シェルターは決められているはずです。たとえばスイスなどでは、自宅に核シェルターを設けることが義務づけられておりました。義務が緩くなった今でも、自宅に核シェルターが設置されていない場合は、市民が入る公共の核シェルターが決められています。病院やホテルなどにもベッド数と同数の人数が収容できる核シェルター建設が義務づけられ、海外からの長期滞在者もどこに入ればよいのか決められています。

『北斗の拳』でいえば、ケンシロウとユリアは××市〇〇町の△△小学校の校庭地下の核シェルター、トキは××市〇〇町のファミリーマート〇〇店の駐車場地下の核シェルターなど、自治体が定められているはずなのです(ケンシロウたちが自宅に核シェルターを持っていないと仮定した場合)。

トキが核シェルターに入れなかったのは、そのような避難指針がなかったからでしょう。本来であれば、防爆扉の前で、トキからマイナンバーカード(?)を見せられた市の担当者(?)が「あ、トキさん。トキさんが入るシェルターはここではありませんよ。ファミリーマート〇〇店の駐車場の地下です。トイレの奥の扉を開けると階段があるので、地下に降りてください。トイレの奥の扉の前の機械にマイナンバーカードをかざせばロックが解除できます。わたしもそろそろここを離れますので、急いでください!」とかなんとか言って誘導すべきなのです。

つまり、『北斗の拳』の戦争勃発前に存在した(と思われる)政府の不手際により、トキは放射性降下物によって被ばくし、死の時を迎えることになってしまったのです。困ったものですね。残念です。遺族たるケンシロウやラオウは政府に損害賠償と被ばく治療の医療費を請求できるでしょう。

公共の核シェルターがあるだけマシ!?

とはいえ、これは他人事ではありません。というよりも、公共の核シェルターがある『北斗の拳』の政府は、少なくとも公共の核シェルターを用意しているだけ立派です。ただし、避難指針がしっかりと用意されていなかっただけです。それはそれで大問題ですが、核シェルターを用意している点は、現日本政府よりも最悪の事態に備えた危機意識の強い政府だといえます。

さて、自宅に核シェルターを設けるのであれば、有事の際にそこに住む家族が入ればよいだけです。これはあまり問題がない。しかし、自宅に核シェルターがない場合、あるいは入院している、出張でホテルに泊まっている、会社で仕事をしているなど、どうすればよいのか、避難指針を政府は考えておいてほしいものです。

いや、避難指針の前に、そもそもの核シェルター建設をスタートしていただきたいものです。昨日も記しましたが、いまの日本には公共の核シェルターもないので、避難指針もありません。また、なぜ収容人数を超えてはならないのかという知識も市民の間では共有されていません。民間防衛(市民防衛)教育がおざなりになっています。

当協会では、4月以降は会員だけでなく一般の方向けにも民間防衛のセミナーを開催する予定ですが、政府には今すぐにでも核シェルター建設にとりかかってほしいものです。

日本核シェルター協会
事務局

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