スイスに学ぶ国民向けの避難シェルター~
スイス政府発行『Shelters』内容紹介(第3回)

2023年10月18日

当協会のスイス特派員Hans Muller氏よりスイス連邦市民保護局(FOCP)から発行された『Shelters』という小冊子が届きました。『Shelters』は設計士や建設会社向けに出されているTWPやTWKなどのスイスの建築指針とは異なり、一般市民向けの全16ページで構成される平易な小冊子です。

副題に「その目的、建設、活用について」と付いているとおり、シェルターの啓蒙活動の一環として作成されている小冊子になります。全5回にわたってその内容を紹介していきますが、今回は第3回目です。( 関連:第1回、 第2回、 第4回、 第5回

スイス政府発行『Shelters』

シェルターの構造と装備品について

今回の小冊子で採りあげているのは、収容人数200名までのシェルターを対象としています。スイスには収容人数最小5名から最大1000名までのさまざまな大きさのシェルターがあることが記述されています。スイスでは~1000名程度の収容人数のシェルターが一般的です。

以前収容人数20,000人という大規模シェルターをつくったことがありますが、演習を行ったところ、目標値の25%しか避難誘導できなかったという結果があり、巨大すぎるシェルターは迅速な避難誘導ができないことを認識しているからだと推測できます。

さて、冒頭に重要な記述があります。

シェルターの大きさにかかわらず、基本的な考え方、及び要件(必要設備)は、標準化の進んだスイスでは、すべてのシェルターにおいて同様である。

シェルターの基本的な考え方や必要となる設備、備品に関しては、規格化が進んでいるので、規模にかかわらず、すべて同様であると記されています。たとえば防爆扉は、標準的な扉であっても、駐車場などで使用されるスライディングタイプであっても、表面をスチールで覆い観音開きとなるNATOタイプであっても、1MN/㎡の過圧に耐えられます。

シェルターの重要なポイントを列挙

次いで、外壁と開口部について、イラストを交えて説明しています。

シェルターは避難者を保護するのが主たる目的である。シェルターは機能的で、対費用・スペースの面で効果的であり、維持・補修しやすいように設計され、装備される。

(略)

鉄筋コンクリートで造られた外壁(床、壁、天井)がシェルターの耐衝撃性を担保している。開口部はコンクリート製の防爆扉と装甲扉で密閉される。

●非常口
すべてのシェルターには出入口が使えなくなった場合(たとえばシェルター上部の建物が崩壊した場合)のために、非常用脱出口、または非常用脱出用トンネルが設けられている。

(略)

個人住宅用のシェルターのイラストが入り、市民が理解しやすいように空間のレイアウトに言及しています。なおイラストは著作権の関係でお見せすることはできません。

●吸排気システム
シェルターの吸排気設備は以下の要素から成り立っている。

・吸気口

・防爆バルブ及びプレフィルター

・換気ユニット(送風機)

・NBCフィルター(ガスフィルター)

・過圧防爆バルブ

手動あるいは電動の換気ユニットが新鮮な空気をシェルター内に取り入れる。化学・生物兵器の危険がある場合はNBCフィルターを換気ユニットに組み込む。

過圧防爆バルブはシェルター内の空気圧を高め濾過されていない空気がシェルター内に入るのを防ぐ。また、過圧防爆バルブは核爆発後の圧力波、あるいは真空波からシェルターを保護する働きもする。

●エアロック
大型のシェルターにはエアロック(シェルター本体と入口の間に設けられたスペース)が設けられており、換気装置が稼働中にシェルターに出入りする場合、外気が入り込まないで出入りできるようになっている。

●衛生設備
一般的にシェルター内に設置される唯一の衛生設備は簡易乾式トイレのみである(収容人数30人ごとに一式)。しかし、シェルターによっては水洗トイレを備えるものもあり、シャワー設備のあるシェルターもある。

ここまでがシェルターの構造とレイアウトについての解説となります。次項の平時のシェルターの備えと維持管理については、次回採りあげます。

日本核シェルター協会 スイス特派員 Hans Muller、事務局

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