核シェルターは本当に意味がない!?よくある誤解を徹底解説-第2部|スイスの核シェルターを調査して分かった教訓

2023年8月3日

当協会の7月7日付ニュースにて、「核シェルターは本当に意味がない!?よくある誤解を徹底解説」と題して記事を配信しました。

一部でほんの少しだけ話題になりましたが、本日はその第2弾。「核シェルター 意味ない」の真偽にさらに迫りました。

「核シェルター 意味ない」議論、三つの背景

先月7月7日に 「核シェルターは本当に意味がない!?よくある誤解を徹底解説」 というニュースをアップしました。

核シェルター意味ないの真偽

結論から言えば「核シェルター 意味ある」なのですが、この「核シェルター 意味ない」論争(?)が起こる背景には、大別して三つの議論があります。

  • 核爆発は非常に恐ろしい被害影響をもたらすので、核シェルターに逃げ込んでも「意味ない」という議論
  • 核シェルターにずっと閉じこもっていないと「意味ない」という議論
  • 核攻撃を受けた後の人生を考えると茨の道が見通せる。自分たちだけが生き残っても「意味ない」という議論

今回は2に関して、核シェルター先進国であるスイスを例にとって説明してまいります。

リスク評価とリスクに対抗できる仕様が必要

と、その前に少々前回の記事を補足します。詳細は前回の記事をお読みいただきたいのですが、前回は1について説明しました。リスク評価にかかわってきますが、例えば当協会で度々参照しているスイスの核シェルターではリスクを「核爆発」に設定し、爆風による圧力の基準を1バール=100kPa(キロパスカル)と設定しています。

前回も記しましたが、1バールの過圧範囲は、

  • 広島型の原爆では爆心地から半径800m、長崎型では爆心地から半径900m
  • 北西の某国が所有していると言われている100ktクラスの場合、空中爆発では爆心地から半径1.5㎞、地表では半径1.2㎞
  • 西の某国が所有している1Mtクラスの場合、空中だと半径3.2㎞、地表だと半径2.6㎞としています。

1バールの爆風が吹いてもこれだけ離れていれば大丈夫な仕様だよ、というのがスイスの核シェルターの仕様です。

国際法上は、民間施設、特に民間人保護のためのシェルターは狙ってはならないことになっていますので、直撃は考えにくい。ロシアのウクライナ侵攻ですら、ロシアがインフラ(民間施設)を攻撃した際に、言い訳をしていたことを思い出してください。

ですので、1の「核シェルター 意味ない」はリスク評価とそのリスクに対抗できる仕様をしっかりと用意しておけば誤りになります。

核シェルターは意味ある

しっかりとした仕様であれば「核シェルター 意味ある」になる。

「紛争の兆しを察知~シェルターに逃げる」フローを設定

では2の核シェルターにずっとこもっていないと「意味ない」という議論に移ります。ここでもスイスを参照します。7月25日付のニュースでも伝えましたが、スイスには5日間ルールというものがあります。非常事態宣言が出てから5日間以内にシェルターに逃げ込む準備を行い、実際に攻撃を受けた場合、アラートが発せられたらすぐにシェルターにこもるというものです。

このルールがしっかりと守られたら「核シェルター 意味ある」になりますが、ひとつ問題があります。非常事態宣言が出てから本当に5日間以内で良いのか? というものです。

ロシアのウクライナ侵攻がきっかけで、スイスでもいま大きな議論になっています。というのも、ウクライナが非常事態宣言を出した翌日に、プーチン大統領が「特別な軍事作戦」を発表して、その数時間後に空襲が開始されました。非常事態宣言が出た翌日に空爆というのはあまりにも短すぎるので、見直しが入っているとのことです。

プーチン大統領がドネツク人民共和国などの独立を承認したのが2/21で、ウクライナが非常事態宣言を出したのが2/23なので、ウクライナの非常事態宣言が遅かったのかなどの議論もあります。

今回の1日で空爆というケースはあるにせよ、「武力紛争の兆しを察知」→「非常事態宣言」→「実際の攻撃・空襲アラート」というフローになり、非常事態宣言が出てから多少の猶予はあるので、シェルターに逃げ込む時間はあります。そのため、最初に掲げた2に関しては「核シェルター 意味ある」になります。

現状、日本ではシェルター関連の法整備ができていないので、スイスなどで定まっている上記のフローはありませんが、シェルター議連の方々が動かれていますので、今後に期待します。

巨大すぎるSonenberg核シェルターの教訓

さて、武力紛争を想定したフローさえできあがっていれば、「核シェルター 意味ある」であり、めでたしめでたしとなるのでしょうか?ここで、昨日ニュースにアップしたスイスのSonenberg核シェルターの教訓が出てきます。

詳細は昨日のニュースをお読みいただきたいのですが、20000人収容可能なSonenberg核シェルターは巨大すぎて、演習時に迅速な移動が困難であったため、規模を2000人に縮小しました。ただし、2000人でも大きすぎるという議論もあります。

一般的に、スイスでは学校や公民館(的なもの)などの地下に公共のシェルターが設けられています。それぞれ規模は1000人以下。当協会が以前視察してきたところ、30~50人程度を1区画として、ひとつの核シェルターは10区画以下でした。

このようなシェルターがコミュニティごとにあちこちに設けられています。中規模シェルターがたくさんあり、また個人の住宅にも核シェルターがあるので、迅速に逃げ込みやすいのが特徴です。

巨大すぎる核シェルター

巨大すぎる核シェルターでは運用面に問題が生じる

先日の松野官房長官の話に見られるように、日本ではこれからシェルターが整備されていくでしょう。同時に避難誘導のフローなども整備されていくはずです。その際、Sonenberg核シェルターの教訓を生かして「核シェルター 意味ある」にしていく必要があります。

では、次回は3について取りあげます。

日本核シェルター協会
事務局

この記事は役に立ちましたか?

はい いいえ