スイス訪問記~
スイス連邦アルガウ州民間保護組織(Civil Protection)取材 第2回

2023年7月19日

先般当協会理事長の池田がスイスを訪問し、スイス連邦アルガウ州の民間防衛組織トップ、国民保護調整部長のMichael Wernli氏と会談しました。本日のニュースはその第2弾、昨日アップしたニュースの続きです。当協会スイス特派員のHans Muller氏によるレポートを交えての長期連載となります。

民間防衛におけるシェルターの建設指針

昨日アップしたニュースでは、スイスにおけるシェルターはCivil Defense(市民防衛、民間防衛、国民保護)という大枠の中の重要な設備という報告をしました。スイスでは、シェルターは主に武力による紛争が発生した場合を想定して設計されます。ただし、原子力発電所事故や地震などの災害の緊急避難所としても使用は可能です。武力紛争を想定しているため、近代兵器の攻撃・影響に耐える建築構造としています。

昨日お伝えしたとおり、連邦政府が建築の指針を出して、建築確認は州政府の民間人保護組織が行います。連邦政府が出している建築の指針ですが、最初に出されたのは1963年の「民間防衛のための建設手段に関する連邦規則」になります。この法規にそって、TWPと呼ばれる建設上の指針がつくられ、1967年以降に建設された建築物にはシェルターが設けられることになりました。

Civil Defense(市民防衛、民間防衛、国民保護)

60年代から出されているシェルターの建設規格

TWP1984より

TWP1984より、核攻撃時に1バールの過圧がかかる範囲

60年代に造られた指針がしばらく使用されていましたが、80年代の初頭に大きく変わります。日本における耐震基準の旧耐震と新耐震のような形で変更しています。おそらくその背景には、1977年にアメリカ政府に提出された核攻撃被害のレポート『The Effects of Nuclear Weapons』3rd Editionがあります。このレポートは核攻撃の被害影響を精緻に報告しています。

さて、スイスにおけるシェルターは大別して、1バールという爆風による過圧に耐えうる民間防衛仕様と、コマンドポスト(民間防衛組織の拠点)や病院などの重要施設向けの3バールの過圧に耐えられる仕様があります。個人住宅や共同住宅、あるいは各自治体が設ける公共のシェルターに採用されている1バールの過圧に耐えられる仕様がスイスでは一般的です。学校や図書館などの地下に設けらえているシェルターは基本的には耐1バールです。

このうち、1バールに耐えられる民間防衛仕様は、TWP1984「シェルター建設の義務化に関する技術的指示」によって大枠が定められました。その後改訂や補足の技術的指示が出され、現在ではTWK2017 「シェルター保護構造の構築と寸法に関する技術的指示2017」「保護構造の構造と寸法の例」、TW Schock2021「民間防衛保護構造の内部部品の耐衝撃性に関する技術的指示」などが出されています。

なお、重要施設の耐3バールは別途TWS1982という技術指示にしたがって建設されます。

州政府の「民間人保護組織」が管理を行う

スイス政府推奨 備蓄品リスト

スイス政府が推奨する備蓄品のチェックリスト

スイスでは、公共のシェルターは自治体が、個人所有のシェルターは建物の所有者が運用を行います。州政府にシェルターの運営状況と維持管理状況を定期的に行う責任が課せられています。たとえば通常の清掃などのメンテナンスは自治体や建物の所有者が行いますが、10年に一度の点検は各州の民間人保護組織が行います。点検内容は防爆ドアの気密性や換気装置のエアフィルター、防爆給気バルブや過圧防爆バルブの動作確認などになります。

また、備蓄品の管理は公共のシェルターの場合は自治体、個人所有のシェルターの場合は建物の所有者が責任をもって保管しておくことになっています。このように、点検や備蓄品に至るまで詳細な規則が定められているのがスイスの民間防衛の特徴になります。

なお、2011年にあらゆる建物にシェルターを設ける義務は緩められました(施行は2012年)。ただし、個人が住宅にシェルターを造らない場合は、有事の際に避難する公共のシェルターを登録しておき、避難するための料金を予め支払う必要があります。義務化は緩められましたが、スイス国民は必ず有事の際に避難できるシェルターを確保しておく必要があります。

次回は、核シェルターに避難するタイミングなど、避難指針について説明します。

日本核シェルター協会
スイス特派員 Hans Muller、事務局

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