事務局より~シェルターを整備するなら…

2023年6月17日

防空壕で蒸し焼きになる悲劇

先日、北朝鮮がミサイルを発射した。核シェルターの普及を訴えてきた当協会としては一刻も早く、核シェルターの整備を進めてほしい。ただし、そこには「一定の水準を満たした」を追加しておきたい。というのも、第二次世界大戦中に防空壕に逃げて蒸し焼きになって死んでしまうケースが多かったからだ。

かつて自宅に防空壕を設けた家も多かった。もちろん、集落ごとに防空壕を設ける場合もあったが、戦時中、もともと家から離れた屋外に設けることを勧めていたのを床下に簡素に造るように方針を転換した。そもそも当時の防空壕とは「防空活動を行うために一時的に退避する場所」であり、避難場所というよりも消火活動を優先させていた。すぐに出入りできないとならなかった。

木造住宅の床下に造った洞穴では爆撃の影響を受けた場合、生き残ることはできない。現在のわたしたちはすぐに理解できるだろう。しかし、当時はそうではなかった。では、現在を生きるわたしたちが「木造住宅の床下に簡素に造った洞穴」をバカにできるのだろうか?

防爆ドア

当協会のモデルルームに設置されている防爆ドア。

「木造住宅の床下に簡素に造った洞穴」と同等?

現在、紛争が起こり、ミサイルが飛んできたとき、地下鉄に逃げ込めば安心だと考える人は少なくないだろう。時々「識者」がそのようなことを言っているようである。また、ウクライナの映像を見て、地下鉄や地下施設に逃げ込み生き残っている姿を見て、地下鉄や地下施設が安全だと考えている人も多いだろう。だが、これでは木造住宅の床下に掘った防空壕と一緒である。

現状のままの地下鉄や地下施設であれば命が助かる見込みは薄い。ウクライナはもともと地下鉄や地下施設を有事の際はシェルターとして使用できることを想定して造られているから助かったのだ。

シェルターには必要な構造がある。防爆扉を設けて爆風や熱が入らないようにするなど、詳細な決まりがある。攻撃の影響を最小限度に抑えるためには、攻撃に対抗できる堅牢な構造が必要になってくる。その意味では現状の地下鉄や地下施設は対抗手段として有効な構造にはなっていない。かつての「木造住宅の床下に簡素に造った洞穴」と同様なのである。現在を生きるわたしたちは「木造住宅の床下に簡素に造った洞穴」をバカにはできない。

スイス民間防衛仕様で攻撃に対抗する

では、攻撃に対抗できる仕様とはどの程度のレベルが必要なのか?当協会では「一定の水準を満たした」核シェルターの整備が必要と訴えているが、その参照先はスイス民間防衛仕様である。

スイス民間防衛仕様には住宅や学校などで採用されている耐1バールと、行政機関や病院などの重要施設で採用されている耐3バールがある。これらの仕様は、永世中立を唱えるスイスが永年の研究の末、たどり着いた規格となる。詳細な規定があるのだが、一言でいえば分厚い鉄筋コンクリートの箱。この箱が地中に埋まり、開口部には分厚い鉄筋コンクリート製の防爆扉や装甲扉を採用している。

スイスで広く採用されている耐1バール仕様だが、この1バールという仕様は爆風の過圧である。風速に換算すると400m以上になる。眼球や鼓膜が破壊されるレベルであり、ライフル以上のスピードで人間が吹き飛ばされる。広島型の原爆であれば爆心地から800m、長崎型だと900m離れた場所での過圧レベルである。近隣の某国が所有する100ktクラスの水爆だと空中爆発で1.2㎞、地表爆発で1.5㎞、爆心地から離れた場所での過圧レベルである。

スイス民間防衛仕様耐1バールであれば、爆心地からこれだけ離れていたら生き残れる確率が高くなるのである。いま爆風について説明したが、この他にも熱線(閃光)や火災、放射線、誘導放射線、放射性降下物なども防ぐ構造にする必要がある。

かつての防空壕での悲劇を避けるために

昨年のウクライナ侵攻以降、世界中でシェルターの建設が進んでいる。また、ニューヨークでは地下鉄のシェルター化計画も進行中である。当協会がつきあっているスイスの核シェルター企業は世界中から発注が集中しているという。世界中が攻撃に対して被害影響を最小限に抑えるためのシェルター建設に邁進しているのだ。

各種報道を見ると、日本でもようやくシェルターの整備が進んでいく模様だ。これから各地にシェルターが整備されていくだろう。そのこと自体、当協会としては悲願であったし、歓迎したい。しかし、ひとつ注文がある。戦時中の悲劇を避けるためには「一定の水準を満たした」シェルターの整備が必要である。その有力な参照先のひとつがスイス民間防衛仕様である。かつての「木造住宅の床下に簡素に造った洞穴」による悲劇を避けるために。

日本核シェルター協会
事務局

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