核シェルターの基礎知識3~
核爆発時の熱線

2023年2月13日

核シェルターの基礎知識第3弾です。核シェルターになじみが薄い日本では核シェルターの正しい知識を持つ人がほとんどいません。当協会では何度も強く訴えておりますが、人の命を守るものですから、核攻撃に対抗できる造りでなくてはなりません。なぜ地下に造るのか? なぜ鉄筋コンクリートの強固な構造にするのか? その根拠を数回に分けてお伝えしていきます。

核攻撃の影響は「4+1(フォープラスワン)」

核攻撃による影響を当協会では「4+1(フォープラスワン)」と呼んでいます。4(フォー)は「爆風(衝撃波)」「熱線(熱波)」「初期放射線」「残留放射線」の4種。これらは直接人体、建物、設備に被害を及ぼします。1(ワン)は「EMP(電磁パルス)」です。これは設備に直接被害を及ぼし、間接的に人体や建物に被害を及ぼします。

今回は「熱線(熱波)」がテーマです。放射線や放射性降下物は「ただちに健康に影響はありません」が、熱線は爆風同様にただちに人体に被害を及ぼします。

核爆発は超高温となり火球を形成して、熱線を発生させます。この熱線が直接人体に被害を及ぼすだけでなく、爆発数秒後にはガソリンや木材などを燃焼させ、火災を発生させます。都市火災が起こると火事嵐(火災旋風、炎の竜巻)が発生するので、巻き込まれたら即死します。

熱線(熱波)の直接的な被害

今回も平成25年度外務省委託「核兵器使用の多方面における影響に関する調査研究」(以下外務省調査研究)に多くを頼ります。この調査研究は素晴らしいです。ん? 外務省? そうです。当時の外務大臣は岸田首相です。こんな素晴らしい調査研究があるのでしたら、ここで描かれている被害を本当に防ぐことができる核シェルターの普及にご尽力ください。

さて、それはともかく、この「外務省調査研究」では16ktの原爆(広島級)と、1Mtの水爆(近隣の某国が所有している)の熱線による熱傷の被害予測も出しています。下記の表になります。

熱傷の深さ、熱線の持続時間

近隣の某国がお持ちの1Mtクラスの水爆の熱線の及ぶ直接的な範囲を、「外務省調査研究」では14㎞としています。この表に出ている被害は1次的な被害(直接的被害)となります。

Ⅲ度熱傷は皮下組織まで及ぶ熱傷で皮膚は固くなり、水泡は形成されません。皮膚の再生は不可能で、原則として手術が必要になります。Ⅱ度の熱傷は深層に及ぶ熱傷と、浅い皮膚の熱傷に大別できます。Ⅱ度の熱傷では皮膚は再生可能ですが、放射線の影響が重なると放射線の影響でDNAが破壊され、皮膚の再生は不可能になってしまいます。

2次的被害としての火災

さて、被害として非常に広範な範囲に及ぶと想定されているのが火災です。熱線による可燃物の発火に加えて、爆風により崩壊した木造建築物が引火を誘発することによって、非常に広範囲に火災が発生すると想定されています。木造建築物が少ない都市であっても、ガソリンという燃料を蓄えた自動車が大量にあるので、大規模な火災が発生すると予測されています。「外務省調査研究」が想定する大規模火災の範囲を掲示します。

大規模火災の範囲

大規模火災だけですよ、大規模だけ! 1Mtクラスの水爆だと半径約8kmが火の海に包まれます。大規模火災は地上の建物をはじめ、すべての物体を焼き尽くすレベルの惨事になります。たとえば都市で大規模火災が発生すると、ビル風による火災旋風が起こる可能性が高いです。火災旋風というのは炎の竜巻を指しますが、大規模火災というのは炎の竜巻が発生して巻き込んだ物体や生物すべてを焼き尽くしてしまいます。この火災旋風は竜巻ですから、移動型火災となり、生物・物体を焼き尽くしながら移動していきます。

この大規模火災の範囲を超えると、今度は中規模火災、さらにその周辺は小規模火災が発生します。第2次世界大戦末期の空襲では、公園などに逃げ込み、周囲を火災で包まれてしまったために一酸化炭素中毒で死んでしまうケースが多々ありました。また、住宅街には木造建築物や自動車が大量にありますから、同様に大きな被害が及ぶことが予測されます。

網膜熱傷・視力喪失を引き起こす閃光

核爆発によって発生する火球は同時に閃光を起こします。わたしが子供の頃、「ピカドンのきのこ雲」(というタイトルだったはず)という本を読んだことがあるような気がしますが、このピカドンの「ピカ」が閃光です。

この閃光は熱線をはるかに超える範囲で人々に一時的な視力喪失を引き起こします。1Mtクラスの核爆発の場合、高度1万フィート(約3,300m)だと爆心地から21kmの地点で10秒間視力が一時的に失われ、53kmの地点でも火球に焦点が合ってしまうと網膜熱傷が起こると言われています。網膜熱傷とは、溶接などで直接強い光に視線をさらしてしまった場合に起こす目のやけどであり、ひどければ失明します。

耐火災に「地下」+「分厚いRC造」は必須

熱線による被害は爆風による被害以上に多大だと言われています。熱傷、火災、視力喪失と、核爆発による熱線の被害影響は非常に恐ろしいものがありますが、地上の物体を焼き尽くしてしまうことがおわかりでしょうか?そういう点でも核シェルターを地上に造ってはなりません。必ず地下に建設して、炎の被害を最大限防ぐために、梁のような分厚いコンクリートが必須になります。

長時間火災にさらされた場合のコンクリートの被害は100㎜程度に及ぶとされています。そのため、上部に木造建築や車などが置かれていて、長時間火災にさらされる可能性があれば、たとえばその箇所が元々650㎜のコンクリート厚であれば、さらに100㎜程度コンクリートを増やす必要があります。スイスの方でも燃料がある場合の指針が出されています。この場合の燃料に木造建築物も含まれています。

当協会が核シェルター造りの前提条件として、しつこく「地下」+「分厚いRC」を何度も何度も訴えている背景がおわかりいただけたと思います。次回は放射線の影響被害について見ていきます。

日本核シェルター協会
事務局

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