核シェルターの基礎知識2~
核爆発時の爆風(衝撃波)

2023年2月9日

核シェルターの基礎知識第2弾です。核シェルターになじみが薄い日本では核シェルターの正しい知識を持つ人がほとんどいません。当協会では何度も強く訴えておりますが、人の命を守るものですから、核攻撃に対抗できる造りでなくてはなりません。今回からは、なぜ地下に造るのか? 強固な構造にしなくてはならない根拠を数回に分けてお伝えしていきます。

核攻撃の影響は「4+1(フォープラスワン)」

核攻撃による影響を当協会では「4+1(フォープラスワン)」と呼んでいます。4(フォー)は「爆風(衝撃波)」「熱線(熱波)」「初期放射線」「残留放射線」の4種。これらは直接人体、建物、設備に被害を及ぼします。1(ワン)は「EMP(電磁パルス)」です。これは設備に直接被害を及ぼし、間接的に人体や建物に被害を及ぼします。

今回は「爆風(衝撃波)」がテーマです。「風」という文字が入っていますが、もはや「風」を超えた何か別のもののような被害を及ぼします。

核攻撃の被害シミュレーション

「The Effects of Nuclear Weapons」という米国政府報告書が数次にわたり出されています。核攻撃の被害を詳細に調査した報告書です。この報告書をもとに核シェルター建設の基準がつくられている、核攻撃の影響調査の元ネタとなる報告書です。ちなみに、1977年に発行された3rdエディションは657ページにわたるので、目を通すだけでたいへんです。

The Effects of Nuclear Weapons

当協会がたびたび言及している、平成25年度外務省委託「核兵器使用の多方面における影響に関する調査研究」(以下外務省調査研究)もこの報告書に多くを依拠しています。さて、この報告書をもとにしている「外務省調査研究」では20kt、100kt、1Mtの原爆がそれぞれ空中爆発した場合と、地表で爆発した場合の被害予測も出しています。20ktの空中爆発は1400フィート(約400m)、100ktの空中爆発は3000フィート(約900m)、1Mtの空中爆発は1700フィート(約2㎞)です。

ちなみに1Mtクラスの水爆は近隣の某国が所有しています。このシミュレーションによる地上距離と最大過圧の関係は下記の表にまとめられていますが、フィートになるので、ピンとこない方もいることでしょう。1フィートは約0.3mですので、0.3をかけるとおおよその距離は出ます。

地上距離と最大過圧の関係

風だけで負傷者が出始める1PSI(重量ポンド毎平方インチ)の範囲は20ktの空中爆発で約4.6㎞、地表爆発では約3㎞です。100ktの空中爆発で約7.9㎞、地表爆発で約5.2㎞、1Mtの空中爆発で約17㎞、地表爆発で約11㎞となります。

風だけで建物崩壊・眼球崩壊

PSIという聞いたことのない単位が出てきますが、これは過圧の単位です。1PSI=6.87kPa=0.068バールで、風の圧力だけで打撲が生じます。当然窓ガラスは割れます。ブロック塀や街路樹も倒壊します。電柱や街灯も倒れます。ちなみに2PSIで屋根や壁が崩壊し、3PSIで軽量鉄骨造建物(プレハブ)は崩壊し、10PSIで木造建築物は半壊します(人は住めなくなります)。

ちなみに、当協会で基準としている1バール=約100kPa(キロパスカル)は14.55PSIですが、鼓膜の損傷など人体に多大な被害が生じ、鉄筋コンクリートにも被害が出始めます。50PSIを超えると、爆風による過圧だけで眼球崩壊が発生すると言われています。

1PSIはなんと風速約106メートル!

PSIやkPaと言っても、当協会のように特殊な仕事をしていなければピンとこないかもしれません。そこで、風速に変換します。1PSI=6.87kPaは風速約106m、10PSI=68.7kPaは風速約404m、20PSI=137.5kPaは風速約572mです。日本で最も強かったとされる台風が1979年の台風20号で、最大風速が70mと言われています。通常風速20mで子どもや体重の軽い人は飛ばされ、風速30mでトラックが横転すると言われていますので、その強さがおわかりいただけるでしょう。

ちなみに気象庁では猛烈な風ということで40m以上はひとまとめになっています。風速40m/sは0.14PSI=0.98kPaです。核爆発時の爆風の恐ろしさがおわかりいただけるでしょう。近隣の某国が所有する1Mtクラスが空中爆発すると、爆心地から半径55,700フィート(約17㎞)の範囲で風速100mを超える激烈な風が吹き荒れるということです。

2次的、3次的、4次的な被害もある

ここまで述べてきた爆風による被害は、あくまでも直接風に当たった際の被害です。爆風が恐ろしいのは、2次被害、3次被害、4次被害など、副次的要因による被害が発生する点です。たとえば爆風で崩壊した瓦礫や破片が飛んできて死亡や負傷が生じる2次的要因による被害もあります。瓦礫や破片が飛んでくるスピードもライフルの銃弾以上の速度だったりします。人体はもちろん、薄い金属は、ごく小さな破片でも貫通します。要するに銃撃と同様の被害を受けます。

また、風に飛ばされて硬いものに当たって死亡や負傷が発生する3次的要因による被害もあります。よく「車にひかれる」という表現がありますが、実際にタイヤにひかれるというよりも、一般的には車に跳ね飛ばされることを指します。3次的要因はこの「車にひかれる」と同様です。さらに飛び散った粉塵による呼吸器官の損傷という4次的要因による被害も発生します。

地下の分厚いRC造でないと防げない!

スイス連邦の核シェルターの建設指針を読んでいると、地上の建物は崩壊することを前提にしていることがわかります。核攻撃時は地上の建物は鉄筋コンクリートの梁や分厚く鉄筋の比重が高い箇所以外はすべて崩れ去っていることが前提となっています。その根拠が上記の爆風による過圧ですが、ご納得いただけるでしょう。ミサイル直撃ではなく、風だけです、風だけ。風だけで地上は吹っ飛びます。

スイス基準の核シェルターは少なくとも1バール=1kPa=14.55PSIの過圧に耐えられるような造りとなっており、当協会でもそれに倣って基準を出しています。当協会が「核シェルターは地下に分厚い鉄筋コンクリートで造らなくてはならない。地中深ければ深いほどよく、鉄筋の比重も高くして、当協会の基準のコンクリート厚を守ってほしい」としつこく訴えているのもおわかりいただけましたでしょうか。

風だけでこれだけの影響が出てきます。では、ここに熱線(熱波)の影響が重なったらどうなるのでしょうか?熱線の影響は次回お伝えします。

日本核シェルター協会
事務局

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