日本で進む地下シェルター整備~シンガポールの地下シェルター事情を探る。

アジアのシェルター先進国、シンガポール。公共シェルターの数はなんと586か所

時々報道にも出てきますが、地下シェルターが整備されているアジアの国として知られるのがシンガポールです。

シンガポール民間防衛隊(SCDF)の公表しているデータによると、現在のシンガポールには合計586か所の公共シェルターがあります。ただし、全てが核攻撃対応の核シェルターかというと、不明な点が多く、大半がいわゆる防爆シェルター(Blast Shelter)に相当する可能性もあります。

さて、これらの公共シェルターのうち、57か所はシンガポール地下鉄(MRT-Mass Rapid Transit system)の駅構内に設置されています。MRTの地下シェルター整備には当協会で永い付き合いのあるスイスのAndair社が技術協力でかかわっているため、Andair社経由でシンガポールの地下シェルターの情報に関して、当協会には入ってきております。

シンガポールは地下鉄などの公共シェルターの他に、一般住宅向けにも地下シェルターが設置されているケースも見られます。一般住宅向けは「HDB(Housing&Development Board Shelters)」という仕様が定められています。この仕様を見る限り、核攻撃想定というよりも耐爆+生化学兵器対応になっていることが読み取れます。

シンガポールでは地下鉄の駅が地下シェルター

シンガポールは地下鉄が非常に発達していますが、地下シェルター建設も古くからスタートしていて、1983年には南北線、及び東西線における9駅の地下シェルター設置が始まりました。それぞれのシェルターの収容人員は駅のサイズによって異なりますが、おおよそ3000~8000人程度の規模となります。最大規模の「Raffles Place」は19,000人の規模となっています。

今年Thomson East Coast Lineが開通する予定ですが、このThomson East Coast Lineにもシェルターは設置されています。スイスのAndair社が技術協力を行ったとのこと。なお、シェルターの所在地は地下鉄の路線図で見る限りでは、新興住宅地に近い場所に多く設けられているようです。

さて、地下シェルターが設置されている駅は下記にマークしておきます。ただし、この資料自体、昨年半ばのものになりますので、この後Thomson East Coast Lineが造られているので、Thomson East Coast Lineに関しては別途掲示します。

シンガポールの地下鉄でシェルターが設置されている駅

上記赤マーカーで記した駅の構内にシェルターが整備されている

画像引用元(著作権者:Aforl、ライセンス:CC BY-SA 3.0、<Wikipedia: Singapore MRT and LRT System Map.svg>)

赤丸で囲んだ駅がシェルターを新たに設けた駅(シンガポール)

赤丸で囲んだ駅がシェルターを新たに設けた駅。Thomson East Coast Line

画像引用元(Land Transport Authority (LTA)>)

この配置を見ますと、複数の路線が乗り入れている駅に地下シェルターが設けられているケースが多いことがおわかりいただけると思います。その理由としては、①出入口が多いため、避難経路の確保がしやすい、②複数の路線の間などにシェルターを設けるスペースが取りやすいなどが挙げられます。

爆風や飛来物などを防ぐため、シェルターは開口部(出入口)をできるだけ狭く造る方が望ましいのですが、そうなるとスムーズな避難がしにくくなります。限られた時間で大人数を避難させるためには出入口を多く設ける必要が出てきます。

おそらく人流シミュレーションによって予め計算しているものと思われますが、複数の路線が乗り入れる駅の方が出入口は多くなるので、そうした駅が向いているとのことです。今後日本でも地下鉄の駅のシェルター化が話題にあがってくるかと思いますが、先行するシンガポールの事例は参考になるかと思います。

ただし、シンガポールの場合、80年代は既設の地下鉄の駅をシェルター化したことはありますが、その後は駅の新設時にシェルターを整備しています。そのため、既存の駅のシェルター化とは状況が異なります。

既存の駅の場合、そもそも構造がシェルターの基準(仕様)を満たしているのかという大問題がまずあります。さらに、重量がありサイズも大きい防爆扉を後からどのように取り付ければ良いのかなど課題は多々あります。また、新設するよりもコストがかかるという点もあります。

強靭化を図るためには既存のコンクリートに塗布することで強度を増加させるポリウレアという塗料があり、このところ、非常に注目されています。以前もお伝えしたとおり、ポリウレアに関しては、防衛大学校名誉教授の大野友則先生がその耐爆・耐衝撃性能に関する研究を重ねてきました。大野先生の研究成果がシェルターに適用されることになるでしょう。

当協会でも、既存の地下施設のシェルター化はひとつのテーマとして、研究部会を造り、研究を重ねていくつもりです。

日本核シェルター協会 事務局

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