なぜ核シェルターの防爆扉は鉄筋コンクリート製なのか?

核シェルター防爆ドア

核シェルターのドアは鉄筋コンクリートで造る!?

当協会に寄せられる質問の中に「防爆扉まで鉄筋コンクリート製なのはなぜ?」というものがあります。また、当協会のモデルルームを視察された方も鉄筋コンクリート製の防爆扉を見て、ドアまで鉄筋コンクリートであることに驚きます。

日本でも防爆扉は工場やプラントなどで使われているケースがありますが、通常はスチールやステンレスなどの金属で造られています。なぜ核シェルターの防爆扉は鉄筋コンクリート製なのでしょうか?

核シェルター防爆ドア

結論から申し上げますと、放射線の一種である中性子線を減衰させられるのがコンクリートだからです。そのため、鉄筋コンクリートになっています。では、この中性子線とはどのようなものなのでしょうか?

放射線の一種、中性子線を減衰させるにはコンクリートが必要!

まず、放射線について基本的な知識のおさらいを簡単にしておきましょう。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、少々お付き合いください。

放射線の人体に対する影響としては、内部被ばくと外部被ばくがあります。内部被ばくは放射線が呼吸や飲食などによって体内に入り込み、取り込んでしまった体内から各臓器に被害を及ぼすものです。外部被ばくは体外から体内を放射線が照射して臓器など身体に被害を及ぼすものです。まずはこの区分を知っておいてください。

さて、放射線にはα(アルファ)線、β(ベータ)線、X(エックス)線、γ(ガンマ)線、中性子線など、複数の種類があります。

放射線の種別の図

このうち、α線は皮膚の角質層を透過できないため、外部被ばくは考慮しなくてもよいが、電離密度が高いために生物的影響は大きく、体内に取り込んでしまうとDNAに大きな損傷を与えます。

ですので、呼吸や飲食を通じて体内に取り入れることを避ける必要があります。β線は透過力が低いので、遮蔽物に身を隠せば被害を少なくすることができます。また、電離密度は低く、皮膚や皮下組織に直接影響を与える可能性も低いです。

γ線の電離密度も低いですが、透過力が強いので臓器や組織にまで到達する可能性があります。しかし、生物的影響はβ線と同程度です。もちろん、β線もγ線も放射線ですから浴びないことに越したことはありません。なお、γ線やX線は厚い金属で遮ることができます。

さて、問題は中性子線です。中性子線を減衰させることができる物質は限られています。金属では減衰しにくい。たとえばX線やγ線は数センチの金属でほぼ影響がないレベルまで減衰できますが、中性子線はほぼ減衰しません。中性子線を減衰させることができるのは「水素」を多く含む物質です。

放射線の遮蔽

水素を多く含む物質の代表的なものは水やコンクリートです。そのため、核シェルターにはコンクリートが必要であり、扉も含めてコンクリートで覆ってしまう必要が出てきます。ですので、核シェルターの防爆扉は鉄筋コンクリート製が必須となります。

人類最悪の敵、中性子線

中性子線は陽子と衝突すると効率よく止まる性質があり、水素で止めることができるため、水素を多く含む物質で減衰させることが可能です。だからコンクリートを遮蔽物として使用するのが望ましい、というわけです。

いま「水素を多く含む物質」と記しました。水やコンクリートの他に、人体も水素を大量に含みます。そのため、中性子による被害を大きく受けてしまいます。水素の原子核(陽子)は中性子が衝突すると弾き飛ばされて周辺の分子をイオン化して細胞の構成分子を破壊します。

中性子はβ線やγ線に比べて電離密度が高いため人体への被害は大きくなります。また、同様に電離密度が高いα線に比べて、人体の深部にまで到達してしまうため、人体に甚大な被害を与えてしまいます。

ある研究によると、中性子線はγ線に比べて、腫瘍誘発は約3~200倍、寿命短縮は15~45倍、染色体異常は40~50倍です。ただでさえ放射線は人体に有害ですが、特に中性子線は人類最悪の敵と言ってよいほどの大きな被害を及ぼします。

ですので、この中性子線をいかに減衰させ、人体に被害が出てこないレベルにするのかが核シェルター建設におけるひとつの重要なポイントです。そこで、防爆扉もコンクリート製にする必要があります。

日本では、防爆扉という言葉からスチールやステンレスなど、金属製の分厚い扉を想像する方が非常に多いのですが、グローバルスタンダードな核シェルターでは鉄筋コンクリート製の防爆扉になります。シェルターになじみのない日本では勘違いされがちですが、人類最悪の敵である中性子線を防ぐために、コンクリートは必須です。

スイスの地下駐車場を利用した核シェルター
スイスの地下駐車場を利用した核シェルター 防爆ドア
スイスの地下駐車場を利用した核シェルター

スイスではショッピングモールやマンションの地下駐車場が核シェルター機能を備えているケースも多い。地下駐車場に入る手前にはスライディングタイプの防爆扉が設置されている。もちろん鉄筋コンクリートだ。

核シェルター 防爆ドア

コンクリートを流し込む前はこんな感じ。もはやコンクリートを流し込む前の壁と言っても良い。こちらもスライディングタイプの防爆扉。

日本核シェルター協会
事務局

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