いま話題の高高度核爆発による電磁パルス攻撃とは?

2023年9月11日

ロシアのウクライナ侵攻で注目を集めるようになった電磁パルス攻撃。当協会のYouTubeでもコメントの多いテーマです。

電磁パルス攻撃によってドローンが撃ち落されることがクローズアップされていますが、単体の電磁パルス兵器ではなく、高高度核爆発による電磁パルス攻撃では広範囲で設備が破壊され、インフラが長期間にわたって停止する可能性が指摘されています。

電磁パルス攻撃による被害影響にはどのようなものがあるのか、その対抗策はあるのか? など、電磁パルス攻撃について、当協会の現時点での考え方をお伝えいたします。

パルス状の電磁波。電磁パルスによる攻撃

そもそも電磁パルス(EMP)とは何なのでしょうか?電磁パルスとは電子機器を損傷する非常に強力な電磁波です。もともと大規模な太陽フレアによって引き起こされる自然現象として古くから知られていました。

1859年に起こった大規模な太陽フレアではヨーロッパと北米の電報システムが停止し、電信用の鉄塔から火花が発生するなどの被害影響が出たことが記録されています(キャリントン・イベント)。

自然現象以外では、電磁パルス兵器や高高度核爆発によって引き起こされることが知られています。ロシアとウクライナの紛争では電磁パルス兵器によってドローンを撃ち落としたり、インフラを攻撃するなど、電磁パルス兵器が多用されていることが報道されています。

当協会のニュースでは、単体の電磁パルス兵器ではなく、高高度核爆発によって引き起こされる広範な被害影響について解説していきます。

設備に直接被害を与え、人体に間接的に影響を及ぼす

当協会では核攻撃による被害影響を「4+1(フォー・プラス・ワン)」と呼んでいます。このうち「4(フォー)」に相当するのが「爆風」「熱線」「初期放射線」「残留放射線(誘導放射線と放射性降下物)」です。この4つは人体、設備、建築物に直接被害を及ぼします。

「1(ワン)」に相当するのが電磁パルス(EMP)です。電磁パルスは直接設備に被害を及ぼし、間接的に人体に被害を及ぼします。たとえば、電気設備を破壊して大規模停電を起こし、インフラ停止によって人体に間接的に被害を及ぼします。

高度30~400kmという高高度で核爆発を起こすと、地表までは爆風、熱線、初期放射線、残留放射線という「4(フォー)」は影響を及ぼしません。大気に阻まれて、地上にまでは届かないのです。

ただし、核爆発によって放出された放射線(ガンマ線)が大気圏に突入する際に大気の分子と衝突して原子に電離作用を与えて、光電子などを大量に放出させます。この電子が地球の磁場に沿ってらせん状に走り、広い帯域の強力な電磁パルスが半径数百~数千kmと非常に広い範囲で発生します。

高高度核爆発のイメージ

高高度核爆発のイメージ。30~400kmの高高度で核爆発が発生すると強力な電磁波が広範囲で発生する

冷戦期の核実験の副産物。60年代から研究が進む

このように高高度核爆発によって発生する電磁パルス(HEMP)は、1960年代に米ソ両国で確認されています。米国では1962年に太平洋上空で1.4Mtの高高度核実験を行いました(スターフィッシュ・プライム)。この実験の直後に爆発地点から1300km離れたハワイ諸島全域で停電が発生し、無線・電話局の電子装置が被害を受けて不通となりました。

旧ソ連では1962年にカザフスタン上空290kmにおいて300ktの核兵器を爆発させました〈184オペレーションK(対弾道ミサイルシステムA実験)〉。約30マイクロ秒で2000~3000アンペアの電流を誘発して、東西550kmに及ぶ、地上7.5mに架設されていた送電線60kmごとに設置されていた増幅器の防護用の全ヒューズを破壊し、地下90㎝まで侵入する低周波で地下浅く埋設されていた電線にほぼ直流の袁流を誘導して、絶縁テープで防護された1000km長の導線及び鋼製の電線を過負荷状態にして破壊。さらに発電所の電源装置をオーバーヒートさせて火災を引き起こしました。

このように冷戦中の核実験の副次的産物として電磁パルスは「発見」され、1960年代からその被害影響と対抗策の研究が進み、70年代には重要施設を中心に対抗策の実装が始まりました。

電子部品、電子機器を破壊する

では、高高度核爆発による電磁パルス攻撃ではどのような被害影響が出てくるのでしょうか?まず、強力な電磁波自体によって電子機器が故障します。初期HEMP(高高度電磁パルス)と呼ばれる、電磁パルスの第1要素に相当します。

この段階の電磁パルスは3~30M㎐という高周波数で波長は10~100mと短く、数ナノ秒で数千ボルトのエネルギーを伝搬する強力な電波の衝撃波を生じさせて、直接電子機器や機械の電子部品を破壊します。

続いて強力な電磁波がケーブルやアンテナに非常に高いエネルギーのサージ電流を発生させます(中間期HEMP、または電磁パルスの第2要素)。これは仕組みとしては落雷による被害に似ています。落雷が広範囲、たとえば本州全域で発生していることをイメージしてください。

過電流・過電圧がケーブル(送電線)経由で侵入してきて、電子部品を使用している機械や電化製品、電子機器が破壊されてしまいます。

雷

日本中で雷が同時多発的に落ちる状況に似ている

過電流・過電圧を引き起こし、インフラを停止させる

初期HEMPと中間期HEMPでもインフラは停止しますが、さらに終期HEMP(電磁パルスの第3要素)というものでインフラが壊滅する可能性があります。核爆発が起こると火球が膨張します。膨張した後に火球は崩壊しますが、その崩壊時に地球の磁界を振動させます。

30~300kHzという低い周波数で、さらに秒単位で継続する1~10kmという長い波長部分と結合する大電流(瞬時高電圧大電流サージ)を発生させます。この伝送エネルギーは電線の長さに比例して大きくなるので、電線が長ければ長いほど巨大な電流を発生させて大量のエネルギーを伝送します。

この終期HEMPで日本中の変電所や変圧器が破損しますので、日本中で停電が発生し、インフラが停止してしまいます。インフラが停止してしまうため、生命維持装置などを使用している方を除けばただちに影響はありませんが、電気をはじめとするインフラがしばらく(最低でも1か月程度)止まってしまうので、次第に人体にも被害影響を及ぼします。

海外の研究では、たとえばワシントンDCが高高度核爆発による電磁パルス攻撃を受けた場合、少なくとも半径800km以内の地域に被害を与え、年間GDPの7%を超える損害を及ぼし、防護の有無にかかわらず復旧には最低でも1か月、最悪の場合は数年間の時間が必要とされています。

実は、まだEMP攻撃に関しては規制がなく、にもかかわらず被害は非常に大きく、インフラ停止になるため社会的弱者から被害を受ける状況になっています。では、対策はないのでしょうか?実は海外では既に対策は進んでいます。また有事に避難するシェルターでは各種対抗策が検討されています。

次回は高高度核爆発が発生させる電磁パルス(HEMP)への具体的な対抗策についてもみていきます。

日本核シェルター協会
事務局

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