各国が進める電磁パルス(EMP)攻撃に対する対抗策

2023年9月12日

電磁パルス攻撃については、ロシアのウクライナ侵攻や、北朝鮮のミサイル実験でも注目を集め、当協会への質問も非常に多いテーマです。

前回の記事 では、高高度核爆発による電磁パルス発生の仕組みとその影響について紹介しましたが、今回は主に対抗策について見ていきます。

高高度核爆発による電磁パルス攻撃可能な国に囲まれて

電磁パルス攻撃は人体や建築物に直接的な被害は及ぼしませんが、設備には直接影響を与えるため、インフラが長期にわたって停止してしまい、じわじわと人体にも被害を及ぼします。電磁パルス攻撃自体は、ロシアのウクライナ侵攻でクローズアップされたとおり、電磁パルス兵器単体もありますが、高高度核爆発の方が広範囲にわたって影響を及ぼすことが可能です。では、高高度核爆発を実行できる国はどこにあるでしょうか?

核兵器を保有していて、人工衛星か長距離ミサイルを保有している国であれば実行可能です。日本の近傍では、ロシア、中国は既に高高度核爆発による電磁パルス攻撃を行う準備が整っています。また、近年ミサイル実験を繰り返す北朝鮮も、実験によってミサイルの精度を高めているはずですので(示威行動だけだとコストが見合わない)、着々と高高度核爆発による電磁パルス攻撃の態勢を整えていると言えます。

そうなると、日本は高高度核爆発による電磁パルス攻撃の準備が整っている国に囲まれていると言えるでしょう。実は欧米や中近東から見ると、核保有国だらけの北東アジアは、世界で最も危険な地域と看做されています。

2017年に北朝鮮が水爆実験に成功した後、北東アジアの他の国―韓国や台湾―では急速に電磁パルス対策を進めました。電磁パルス攻撃には対抗手段がいくつもあり、それぞれ確立されています。

ファラデーケージ、SPD、超々高圧対応変圧器

前回、 高高度核爆発が発生する電磁パルスによる影響は3段階に大別できることを記しました。初期HEMP(電磁パルスの第1要素)、中間期HEMP(電磁パルスの第2要素)、終期HEMP(電磁パルスの第3要素)です。

初期HEMPは強力な電磁波自体が電子部品を使用する機器や、サーバなどの電子機器を直接破壊するため、電子部品を使用する機器や電子機器自体を電磁波を通さないファラデーケージで覆ってしまう必要があります。ファラデーケージはさまざまなサイズで既製品も用意され、またサーバールーム全体をファラデーケージ化したり、電磁波を通さないコッパーシートで部屋全体を覆ってしまうなどの対策はあります。

また、停電に備えて用意している発電機や蓄電池なども電子部品を使用しているケースが多いので、ファラデーケージで覆ってしまう必要があります。初期HEMPはファラデーケージやコッパーシートなど、電磁波を通さない材料で遮蔽すれば防護できます。

中間期HEMPはケーブルやアンテナに過電流・過電圧を発生させて、ケーブル(主に送電線)から分電盤経由で電子部品を使用する機器や電子機器を破壊します。これは雷があちこちに落ちるのと同様なので、分電盤の前段、電力会社からの幹線から来た1次電源との間にファラデーケージで覆われたSPD(サージ・プロテクト・デバイス)を設置します。

電磁パルス攻撃を想定して使用するSPDは一般的な落雷防止装置ではなく、核実験でのエビデンスが取れている商品を使用して防護する必要があります。終期HEMPになると、非常に大きな過電流・過電圧が発生する可能性が高いので、SPDだけで防護できない事態も想定して、超々高圧変圧器や超々高圧が入ってきた場合の遮断装置など、インフラ側で対策することになります。

スイスの核シェルター 発電機

発電機はファラデーケージで覆う必要がある

スイス(だけではないが)ではEMP対策も進む

いま、スイスでは古くなった核シェルターの改修が進んでいます。既に築50年くらいのシェルターが多いので、電気や換気設備の更新や建物自体の補修などが進められています。こうした改修にあわせて、EMP対策を施す計画が進展しています。

例えば発電機や蓄電池をファラデーケージ内に設置する、あるいはシェルターの分電盤前段には必ずSPDを設置するなど、対策は進んでいます。また、スイスの公共のシェルターには、ID管理など、平時からデータを蓄積しておくサーバールームが設けられるケースがありますが、ファラデーケージ化された空間を設け、さらにEMP対策を施したサーバーラックを使用する必要があります。

なお、andair社の換気装置は機器自体がファラデーケージ化されているので、電磁パルス対策済です。

スイスandair社にある電磁パルス(EMP)実験室
スイスandair社にある電磁パルス(EMP)実験室
スイスandair社にある電磁パルス(EMP)実験室
スイスandair社にある電磁パルス(EMP)実験室

スイスandair社にある電磁パルス(EMP)実験室。EMP対策サーバーラックやLAN経由で過電流が入り込みそうになった場合の遮断機など、各種対策ソリューションの開発を進めている。

電磁パルス対策済みの換気装置

なおandair社のNBCR対応の換気装置は既に電磁パルス対策は済んでいる。

日本でもマイナンバーカードに保険証の機能を持たせることになりますので、スイスのように国民にシェルターの割当を行うのであれば、個人のナンバーで管理することになるでしょうから、シェルター内にファラデーケージ化された空間を設ける必要があるでしょう。「スイスでは」と書きましたが、電磁パルス対策を進めているのはスイスに限らず、世界的な傾向です。

日本周辺の台湾や韓国では、2017年に北朝鮮が水爆を開発した後から変圧器を超々高圧対応に変えるなど、インフラでの対策が進むとともに、SPDの整備も進んでいるとのことです。日本ではEMP対策はまだまだこれからですが、シェルター整備と同時にEMP対策を進めていく必要があります。

当協会が 9月1日にオープンしたショールーム では、防爆ソリューションに加えて、対EMPソリューションも展示しています。EMPに関しては、化学兵器や細菌兵器とは異なり、国際的に規制がない状態です。被害影響と対策方法は確立されていますので、シェルター整備とともに対策を進めていく必要があります。

日本核シェルター協会
事務局

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