日本の地下シェルターの現状と課題。地下シェルターワーキンググループ座長、学識委員に聞く。

昨年5月、政府により発表された骨太方針にシェルター整備が盛り込まれ、それとともに関係省庁が具体的な検討を進めている中、今年の2月にスタートしたのが『災害大国日本における有事に備えた地下シェルターに求められる性能・仕様の在り方検討ワーキンググループ』(以下、地下シェルターのワーキンググループ)です。

このワーキンググループは、安全保障、災害、エネルギー・空調・換気分野など、地下シェルターに関連するさまざまな分野の専門家に入っていただき、日本の地下シェルターのあり方や性能や仕様についてまとめていくことを目的としています。そして、本年12月には最終提言書を内閣総理大臣宛に提出します。

このワーキンググループには、当協会の理事長の池田時浩が学識委員に就任。そして、当協会の顧問である濱本卓司東京都市大学教授が座長に、同じく顧問の矢代晴実元防衛大学校教授が学識委員に就任しています。

そこで今回は当協会顧問であるお二人の先生に、日本の地下シェルターの現状と課題についてインタビューしました。

座長・濱本卓司 東京都市大学教授に聞く

なぜ今、地下シェルターが求められているのでしょうか?

やはりロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ攻撃が連日ニュースで取り上げられているのが大きいと思います。現実に攻撃にさらされる都市や建築物が、どのような悲惨な状況になるのか?それが克明に伝えられています。それまでも北朝鮮のミサイル実験のニュースはありましたが、(リアルな)映像としては届けられていませんでしたから。

さらに、この北朝鮮の問題や台湾有事の問題など、緊張が日本の周辺でも起きてきていることも大きいと思います。そして、特にミサイル攻撃を受ける映像を見ていると、地上の構造物は耐えきれないということが分かります。ではどうすればいいのか?となった時に、やはり地下に潜って耐えるしかない、というのを多くの人が心の中で思っている。それが背景にあると思います。

そういう中で立ち上がった今回のワーキンググループの大きな目的を教えてください。

この問題にいかにチャレンジしていくか?となった時、皆その後がなかなか発想できない。自然災害ならともかく、こういった有事になると「自衛隊が対処するだろう」くらいにしか考えられない、というのがあると思います。

そうなってくると、やはり誰か専門家などが何かを言ってくるのを待たざるを得なくなる。そういう背景があって(それに応える形で)ワーキンググループがスタートしました。

シェルターの在り方について提言するにあたり、考え方をお聞かせください。

シェルターというと、いつも参考にするのがスイスの基準です。ですが日本の場合は地震国なので、これまでいろいろな地震を経験してきて、その都度いろいろな問題が見つかってきて、その解決策として建築基準法も変えながらきています。スイス基準は参考にはなるのですが、何か”しっとり”とこちらに入ってこない。

その大きな要因の一つは「仕様設計」といって、壁厚は何センチ、天井厚は何センチといった具合に先に定量的に出して設計していく考え方があるのですが、そうなると、なぜそうなのかの理由付けが弱いというのがあります。

スイスの基準が今の日本でも本当に合っているのか?その辺りをしっかり見直す必要があります。そのためにも、今の建築基準法にある「性能規定型」の考え方に立ち戻ってシェルターを考えていく必要があります。

もう一つは、その仕様設計に関係している問題なのですが、どうしてもすぐに「モノ(仕様)」を対象にして入ってしまいがちです。その前になぜその構造にするのか?その設備機器が必要なのか?という前提ですね。その前提は実は「人間が何を要求しているのか?」に大きく関わってきます。

そういう要求性能を、なぜ人間が出してくるのか?という「人間軸」をまず置いて、その後に構造と設備などの具体的な話に入っていく必要があります。すぐ「モノ」に入っていかないということです。そういう流れの筋道を皆さんにお話しさせていただきました。

そしてもう一つは、極めて工学的な狭い話になりますが、今考えている地下シェルターというもの自体が、地盤の中に造られた構造体であるという事から、地盤と構造物の全体のシステムとして見ていくという視点が大事になります。

仕様設計というのは直ぐ構造物に目が行ってしまうので、地盤をどう見ているかという視点が弱いです。荷重を与えたときに地盤がどうなるか?構造物にどう影響を与えるか?そして、だから壁厚はこういう厚さなんだというロジックがあまり構築できていない。それをもう少し丁寧にやるためには、やはり「地盤と構造のシステム」として考えて、構造を見ていく必要があります。

本日も様々な分野の方に集まっていただきましたが、その多くの方々の知見を反映させるためには、この枠組みで進めていかないと恐らく反映しないと考えています。まずは出発点として、これを皆さんにお話しさせていただきました。

濱本 卓司(はまもと たくじ)東京都市大学名誉教授 / 日本核シェルター協会顧問

<略歴>

1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業

1981年 早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了・工学博士/一級建築士

1982年 大林組

1986年 イリノイ大学 客員研究員

1990年 武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部建築学科 助教授

1996年 同 教授

1999年 日本建築学会賞(論文)受賞

2000年 武蔵工業大学建築学科主任教授

2016年 東京都市大学名誉教授

2023年 特定非営利活動法人日本核シェルター協会 顧問

<学位> 工学博士

<専門分野> 建築構造,地震工学,海洋工学

学識委員・矢代晴実 元防衛大学校教授に聞く

先生は災害に関するリスクマネージメントに携わってきましたが、戦争などの有事の場合、自治体・民間レベルでのマネージメントはどういった形で落とし込まれているのでしょう?

自然災害の場合は、避難所も含めてある程度基準が決まっています。シェルターという観点でいうと戦争などの有事の際には、まず最初に避難する場所が必要ということになりますが、今は小学校や公民館などの公共施設にまずは避難するという形です。

一方で、災害の際に避難所で暮らすことの難しさから、東京都なども推奨している「在宅避難」という考えがあります。そういった現状もある中で、戦争やミサイル攻撃に対する対策というのが加わってくると、リスク管理は相当難しくなってくるでしょう。

そうなるとやはり地下にシェルターというのを考えざるを得なくなります。しかしこれまでは自然災害で地下に逃げるというのは、あまり考えられてこなかったですから、今後は災害でも地下に逃げるということも新たに考えていく必要がありますので、そういう意味ではこのワーキンググループで行っていく議論は重要になってきます。

武力行使事態が起きた際の住民の避難フローについてどうお考えですか?

自然災害の場合は、国の施策としてフローは決まっているが、それを住民が分かっているのか?というと、現実はしっかり浸透しているとは言い難い。ましてやミサイル攻撃となると、自治体もよく分かってないし、住民はもっと分かっていないというのが現状でしょう。これについてもワーキンググループで新たに話し合うというのは重要です。

自然災害だけでなく武力行使事態も含めると、備蓄品に対する今後の在り方はどうお考えですか?

備蓄に関しては自治体にもよりますが、現状はかなり整備されてきています。ですが、水に関しては備蓄量が限られているため人数分は足りておらず、特に生活用水までは備蓄されてないというのが現状です。武力行使の場合は先が見えず、自然災害よりもっと長くなることが想定されます。

そうなってくると備蓄の基準を設けるのが難しく、例えば備蓄量は何日分とするのか?人数は何人とするのか?という問題が出てきます。自然災害の場合は過去の事例がありますから、ある程度皆が納得する値を出せますが、武力攻撃の場合はノウハウがないため合意形成が難しくなってきますので、このあたりの課題も今後ワーキンググループで話し合っていきます。

矢代 晴実(やしろ はるみ)元防衛大学校教授 / 日本核シェルター協会顧問

<略歴>

早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了(建設工学専攻)

早稲田大学助手

東京海上日動火災保険会社

アジア防災センター

東京海上日動リスクコンサルティング株式会社

防衛大学校教授

特定非営利活動法人日本核シェルター協会 顧問

<学位> 工学博士

<専門>地域・都市防災学、リスクマネジメント、危機管理

終わりに

今まさに動き始めた日本のシェルター整備。ワーキンググループには、お二方をはじめ各分野の第一人者が参加しており、本当に心強い限りです。当協会としても、より良い方向に進むために、引き続き日本のシェルター整備に貢献してまいります。

日本核シェルター協会 事務局

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