津波から命を守る地下シェルター最新事情!必要な性能と課題【2025年版】
日本核シェルター協会はこれまで長年にわたり、核シェルターの普及と国民の防災意識向上に取り組んできました。しかし近年、私たちを取り巻く脅威は地震や津波、台風や豪雨災害、そして有事のリスクなど多様化しています。そのため、現在は核シェルターに限らず、あらゆる災害や危機に対応できる安心・安全な避難環境を日本に根付かせることを使命として活動しています。
そのような中で、東日本大震災以降、度重なる豪雨災害もあり、津波や洪水といった水害から命を守る手段の重要性が浮き彫りになっています。こうした状況を踏まえ、当協会では地下シェルターを水害対策にも活用できるのか、どのような性能が必要で、どのような課題があるのかについて本格的な検討を開始しています。
本記事では、特に津波に対応できる地下シェルターに必要な性能や、直面する課題を最新の状況と事例を交えながら解説します。
津波に対応した地下シェルターの必要性
これまで地下シェルターは、核攻撃やミサイル攻撃などの武力攻撃に備えるための避難施設という認識が一般的でした。しかし近年では、自然災害にも対応できる地下シェルターが求められるようになっています。
大規模な自然災害の脅威
日本は四方を海に囲まれ、地震や津波のリスクが常に存在しています。東日本大震災をはじめ、南海トラフ地震などの巨大地震が今後高い確率で発生するとされており、沿岸地域の人々にとって津波対策は最優先課題です。我が国のこれまでの災害の歴史を振り返ると、地震や津波で多くの尊い命が失われています。
下記は当協会の会員向け講習会で、顧問である今村文彦教授(東北大学副学長・災害科学国際研究所教授)が示した、津波と地震のそれぞれの巨大災害の発生割合と影響に関するデータです。
巨大災害の割合と影響:津波
| 684年以降 | 全体 | 巨大災害 |
|---|---|---|
| 発生件数 | 180件 | 21件(12%) |
| 犠牲者数 | 125,000人 | 117,000人(94%) |
巨大災害の割合と影響:地震
| 620年以降 | 全体 | 巨大災害 |
|---|---|---|
| 発生件数 | 416件 | 32件(6%) |
| 犠牲者数 | 343,000人 | 328,000人(96%) |
これまで発生した災害のうち、「巨大災害」と呼ばれる災害は、津波に関しては全体のわずか12%であるのに対し、その巨大災害で犠牲となった方は全体の94%にも上ります。つまり、中小規模の災害に対してはある程度対応ができていても、それを上回るような災害が起こると一溜まりもなく、大きな犠牲者を出してしまうということが明らかになっています。これは地震においても同様の結果です。
私たちは今、この低頻度で起こる巨大災害にどうやって対応すべきなのかが問われているのです。
安全保障上の脅威
近年の国際情勢は、日本の安全保障環境を一層不安定にしています。特に台湾有事の可能性は、南西諸島をはじめ日本の領土への直接的な影響が懸念され、日本政府は昨年より本格的にシェルター整備に取り掛かっています。
また、EUではロシアによるウクライナ侵攻を受けて民間防衛の重要性が再評価されており、各国でシェルター整備が加速しています。実際、ウクライナでは地下シェルターへの避難によって、多くの市民の命が守られている現実があります。
地下シェルターはミサイル攻撃といった有事の脅威に対して極めて有効な防護手段であり、さらに自然災害にも対応可能な多目的な避難インフラとして注目されています。単一の災害対策ではなく、有事と自然災害の両面から命を守る地下シェルターこそが、これからの社会に不可欠な安全保障対策と言えるでしょう。
津波対策として求められる地下シェルターの性能
津波から命を守るには、従来の地下シェルターの性能では不十分です。地下シェルターはもともと堅牢で安全性が高く、武力攻撃のみならず地震や風害にも有効ですから、津波にも対応する機能が備われば、それはマルチハザードに対応する避難施設となります。本章では、その必要な性能と課題を整理します。
茨城県つくば市にある核シェルター(日本核シェルター協会)
そもそも地下シェルターの構造とは?
地下シェルターは単なる地下室とは異なり、命を守るためのシステムとして機能する必要があります。そのためには、まず衝撃に耐える堅牢な鉄筋コンクリート造を地下に設置する必要があります。さらに、外部の粉塵や有害物質を遮断する気密性と、CBRNE対応*1の換気装置も必要です。また、水・食料・電源などを備えたライフラインの独立性も求められます。
*1 化学 (Chemical)・生物 (Biological)・放射性物質 (Radiological)・核 (Nuclear)・爆発物 (Explosive)
津波対応に求められる性能
地下型の津波シェルターは、まだ実用化事例が少なく、設計や施工方法は確立されていないのが現状です。当協会でも研究を進めていますが、今後の普及に向けて課題の整理が必要です。ここでは、津波対応シェルターとして求められる性能や検討すべき主な要素を挙げます。
- 完全防水構造:浸水を防ぐ水密性の扉・ハッチの採用
- 高い耐圧性:津波による水圧や漂流物の衝撃に耐える構造
- 換気・酸素供給:長時間避難を想定した換気・酸素設備
以上はあくまで構造や設備面で考えられる性能要件です。これに加えて、ハザードマップに基づく設置場所の選定や、想定する避難対象者に応じた立地条件・出入口設計なども慎重に検討する必要があります。
津波シェルターの設置場所の検討
津波に対応した地下シェルターの効果は、設置場所の選定で大きく変わります。「どこに」「何のために」設置するのかを明確にしなければ、避難手段として十分に機能しません。ここでは、避難計画との関係や津波に対する全国の取り組み事例を解説します。
避難場所と避難所は違う
防災計画において、「避難場所」は命を守るために一時的に避難する場所、「避難所」は避難生活を送る場所として位置付けられています。武力攻撃を想定した地下シェルターは、基本的に長期滞在を前提に設計されており、有事の兆候が見られた場合、あらかじめ避難を済ませて滞在することが計画されています(海外の事例)。
一方で、津波の場合は間違いなく短時間での緊急避難が求められます。そのため、地域の特性や被害想定、人口密度や予算などの条件に応じて、設置されるシェルターのタイプを使い分けることも考えられます。つまり、目的を明確にし、例えば「緊急安全確保シェルター」や「長期滞在型シェルター」を柔軟に組み合わせて整備することも検討課題となるでしょう。
避難場所等の図記号
全国に広がる津波避難タワー
津波避難タワーは、垂直避難を目的とした施設であり、津波発生時の一時避難先として有効とされ、各地で整備が進められています。この津波避難タワーの設置エリアは、広大かつ平坦な土地で高台が近くにない場所や、近くの高台へすぐに避難が困難な地域が選ばれています。
宮城県仙台市にある津波避難タワー
しかし、それでもタワーまでの移動が困難な地域も存在するなど課題もあります。東日本大震災では、浸水高が15mを超える場所が多くあり、やはり高さを設けることが望まれます。そうなれば長い階段やスロープを上らなければならず、高齢者などには大変厳しいという実情があります。地下型の津波シェルターが実現すれば、この問題が軽減できることが期待されます。
高知県室戸市にある津波シェルター
一方で、高知県室戸市には崖地を利用して造られた津波シェルターがあります。この津波シェルターはトンネルと立坑から構成されており、避難時は並行移動で難なくトンネル内に避難が可能です。室内は水密扉により水の浸入が防がれており、飲用水や食料などが備蓄され、24時間の滞在が想定されています。また、高さ23mの立坑が設けられており、山の中腹から地上へ脱出が可能です。
この集落は、海岸から山までわずか50mほどで、避難場所まで勾配がきついため高齢者の垂直避難が難しい地形であることから、高知県が対策を進めたものです。こちらの津波シェルターは、武力攻撃を想定した地下シェルターとも共通点が多く、今後の参考として重要な事例となるでしょう。
(出典:室戸市市役所資料)
ご紹介した避難施設からも分かるように、今後検討される津波対応地下シェルターは、地域の環境に応じて最適な設置場所や方法を検討する必要があります。一次的な避難場所としてのシェルターなのか、長期滞在型のシェルターなのかといった目的を明確にした計画も必要になるでしょう。
また、避難施設は維持管理の面から私有地よりも、公園や学校などの国有地・公有地が選ばれやすい傾向があります。しかし、その所在地がハザードマップに基づく理想的な立地と必ずしも一致しないという課題もあります。
喫緊の課題
これまで説明した通り、津波に対応する地下シェルターの重要性は明らかですが、普及には依然として多くの課題が存在します。喫緊の課題としては以下の点が挙げられます。
技術水準とコストの壁
津波対策には、高い水密性を確保する技術や酸素供給システムなど、命を守るための高度な技術が求められます。そのため施工コストが高くなりやすく、今後は技術の標準化と低コスト化が普及への大きな課題となります。
財源の確保
地下シェルター整備は、基本的に国や自治体の政策として推進されるべき公共事業ですが、それだけでは整備が限定的になりかねません。そのため、民間による投資促進の仕組みづくりが不可欠と言えるでしょう。また、国庫補助や自治体予算など公的資金の確保も重要です。ある自治体では、洪水の避難タワー建設の財源として、国の補助金や地方債に加え、ふるさと納税や寄付を募るといった工夫で経費を賄っているようです。
平時利用モデルの重要性
平時にどのような利用をするかも重要です。平時に利用できる多目的空間として設計することで、収益性を確保し導入コストを賄うことも可能です。むしろ、平時利用のモデルを明確に定めないと、設置計画や維持管理の試算が立てづらく、導入のハードルが高まります。
さらに、平時から利用することで、ランドマークとして地域の避難行動を促したり、避難訓練と連動して有事の際の実効性を高める効果も期待できます。
最後に
日本には現在、武力攻撃を想定したグローバル基準の地下シェルターは整備されておらず、基準や法制度も未整備の状況です。しかし、日本政府はようやく本格的な整備に向けて動き始めました。一方で、日本は世界有数の災害大国であり、とりわけ津波対策は十分とは言えません。
地下シェルターは本来、地震や風害などの自然災害にも強い構造を持っています。ここに津波への対応力が加われば、真の意味での「マルチハザードシェルター」が実現します。政府が整備に着手した今だからこそ、開発と基準策定を進め、防災・安全保障の両面から、誰もが安心して避難できる環境を整えることが急務です。当協会は、その実現に向けた研究・提言・普及活動を今後も推進していきます。


