スイス連邦民間防衛局(BABS)のプロジェクトレポートから読み解く、日本への示唆

スイス視察で行われたBABSによるプレゼンテーション
スイスでは年初にスキーリゾートとして知られるクラン・モンタナのバーでの火災で、多くの方が亡くなる不幸に見舞われました。お亡くなりになった方々には心より哀悼の意を捧げます。また、負傷された方々におかれましては、一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げます。
2月17日、スイス連邦民間防衛局(BABS)は、クラン・モンタナの火災被害者に関する最新の支援状況を報告しました。事件直後、国内の治療キャパシティを超えたため近隣国へ搬送されていた負傷者のうち、容態が安定した36名をスイス国内へ呼び戻し、本格的なリハビリに移行することを決定。治療は、高度な火傷ケアで知られるリハクリニック・ベリコン(RehaKlinik Bellikon)およびシオンの専門施設で実施されます。
この対応は、BABS傘下の国家警報センター(NAZ)が組織した専門家委員会が中心となり、国境を越えた患者管理と国内リソースの最適化を主導しています。スイスの核シェルター普及率100%という「ハード」の裏側には、こうした有事の医療ネットワークを即座に動かす「ソフト(統合的運営体制)」が機能しているのです。
民間防衛組織「BABS」とは何か?
BABS(Bundesamt für Bevölkerungsschutz)は、スイス連邦において民間防衛を統括する機関であり、連邦国防・国民保護・スポーツ省(VBS)の下に設置されています。緊急事態対応センターや研究機関を擁し、有事における国民保護を担うとともに、国家的危機対応の調整中枢として重要な役割を果たしています。
この体制は、今回のクラン・モンタナ火災への対応にも明確に表れているように、スイスの民間防衛が軍事とは別軸で構築された国家存続の基盤として機能していることを示しています。

スイスの民間防衛組織図
民間防衛を支える通信基盤
スイスの民間防衛体制を理解するうえで見落としてはならないのが、通信インフラの整備である。BABSは現在、国家危機対応を支える通信基盤の強化を進めています。2月12日、VBSはBABSの通信基盤に関する2件のプロジェクトレポートを公表しました。
その一つが「SDVN+(セキュア・データ・ネットワーク・プラス)」です。これは国家重要機関を結ぶ安全なデータ通信基盤の構築計画で、2029年の完了が予定されています。もう一つが「WEP2030(ポリコム・バリューリテンション」です。現在、民間防衛隊、警察、消防、医療機関などでは、既存の全国統一無線通信システム「ポリコム(Polycom)が運用されています。その安定運用を確保するための維持更新計画が「ポリコム・バリューリテンション」であり、2026年完了予定とされています。
シェルターや医療体制がどれほど整っていても、それらが確実につながらなければ最大限の機能を発揮しません。このようにスイスでは、将来的な次世代化を見据えながら、新規構築と既存基盤の維持更新が同時に進められており、これにより危機対応全体の継続性が担保されているといえます。
日本への示唆
当協会がこれまで強調してきた通り、スイスの強みは単なる高いシェルター普及率ではありません。物理的インフラの整備、それを機能させる運営体制、そしてそれらを恒常的に支える法制度が一体となっている点にあります。
今回のクラン・モンタナの被災対応やプロジェクトレポートは、こうした三位一体の構造が具体的に機能し、持続されていることを示しています。日本ではシェルター整備はまだ始まったばかりですが、単なる施設導入ではなく、国家的な民間防衛体制の構築が重要であり、その視点こそが、今まさに問われていると考えます。
事務局


