EUの新たな危機対応戦略!「最低72時間以内に自給・自足体制を」進む民間防衛政策

EUの新たな危機対応戦略

2025年3月26日、EUの欧州委員会は、欧州議会、欧州理事会、評議会、欧州経済社会委員会、地域委員会へ向けて、「欧州危機対応連合戦略(on the European Preparedness Union Strategy)」と題した共同声明*1を発表しました。これは、欧州が直面するリスクに備えるため、加盟国に新しい戦略を打ち出したものです。

安全保障上の緊張や自然災害、パンデミックのリスクが高まる中、EU全体として「市民の備え」を強化する内容となっています。従来の防災・危機管理を超えた、より包括的な「民間防衛」への転換とも言えるこの戦略には、日本にとっても多くの示唆が含まれていますので、ご報告いたします。

*1参考資料:外部サイト 欧州委員会 共同声明 – JOINT COMMUNICATION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE EUROPEAN COUNCIL, THE COUNCIL, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS

欧州が直面するリスクとは

欧州委員会が示した直面するリスクとは何か。共同声明によれば、まず一つに「ロシアによるウクライナへの違法な侵略戦争、高まる地政学的緊張、国家主導のハイブリッド攻撃とサイバー攻撃、重要資産を狙った破壊工作、外国による情報操作と干渉、そして電子戦」といった工作活動を含めた軍事的な脅威のことです。

さらに「新型コロナウイルスによるパンデミック」で顕在化された、エネルギーや医薬品、食料、その他重要な原材料を含む、EUの保健サービスとサプライチェーンが深刻な混乱に陥る可能性のこと。そして、「ヨーロッパは最も急速に温暖化が進んでいる大陸である」とし、洪水、干ばつ、森林火災、海岸浸食、熱波、寒波、暴風雨など、壊滅的な自然災害を挙げています。

欧州委員会はこれらの増大する課題と、将来の危機に対処するため、欧州の民間および軍の準備態勢を強化することが緊急の課題であるとし、加盟国間で危機に備えるための連合を設立するとともに、共通の行動計画を示したのです。

EUの新たな戦略と民間防衛政策

この行動計画は下記の7つの分野が提案されており、全部で30項目の計画が示され、さまざまな危機への予測と対応を強化することが求められています。

戦略対象となる7つの分野

  • 先見性と期待
  • 重要な社会機能の回復力
  • 住民の準備
  • 官民協力
  • 民軍協力
  • 危機対応の調整
  • 外部パートナーシップによる回復力

特に注目すべきは、市民や企業を巻き込んだ体制を構築し、有事へ備える方針が示されている点です。それぞれが果たす役割、責任、優先事項を明確にし、民軍連携のための取り決めを策定するとしています。また、市民のリスクと脅威に関する意識を高めるためのプログラム推進も策定されていました。

長年にわたりスイスの体系的な民間防衛体制や避難指針に関する情報収集をしてきた当協会としては、今回の動きは、まさにスイスの先進的な取り組みを踏まえた変革と感じざるを得ません。

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さて、この中でシェルターに関する直接的な項目は見当たりませんでしたが、第14項に示されていた備蓄に対するガイドラインに関連事項が見つかりました。

14)最低72時間の人口自給を達成するためのガイドラインを策定する

  • 深刻な混乱が発生した場合、初期段階が最も重要である。欧州委員会は、加盟国が少なくとも72時間の住民の自給自足を達成するためのガイドラインを提案する。PreparEU(本戦略)イニシアチブの一環として、これらのガイドラインは、必須物資の備蓄、危機対応計画、避難所の利用可能性、重要な土地と空間の確保のための措置、そして危機発生時に人、動物、財産を保護するためのその他の措置を網羅し、的を絞ったキャンペーンや活動を実施。EU の新しいオンラインプラットフォームは、市民と旅行者に対し、直面する可能性のあるリスクと、それらのリスクを軽減するための実践的な手順に関する、個別かつアクセスしやすい情報を提供すること。

この中に記された「避難所の利用可能性」にシェルターが含まれていると思われます。最低72時間の自給・自足体制を整えるという部分に関しては、すでに食料・水などの準備体制を整えるという方向でEU加盟国は動いているようです。

ガイドライン策定の意義と示す事

14項で示された「最低72時間の自給・自足体制」は、その内容だけを見れば特段、目新しいものではありません。しかし、ここで誤解してはならないのは、これが単なる市民啓発にとどまらず、EUとして政策レベルで明確に位置づけられた点にあります。この策定により、各加盟国が具体的な対策を講じるための法的・制度的な根拠が強化されたと言えるでしょう。

そしてこの動きは、欧州における安全保障環境の悪化や自然災害リスクの高まりが、現実の脅威となっていることの象徴でもあります。

最後に

共同声明によると、2024年時点で、欧州のほぼ半数(49%)の人々が、「自分たちに影響を及ぼす可能性のある災害リスクについて、十分な情報を得ていない」と感じているとのことで、市民が危機への備えと対応の取り組みに積極的に参加することが重要としています。

さらに「備えと回復力の文化を育む考え方を生み出すには、パラダイムシフトが必要」と強調しています。

我が国でも自然災害はもとより、安全保障環境が大きく変化している今、これは共通する課題です。特に有事への備えに対する関心は十分とは言えず、まさにパラダイムシフトが必要なのかもしれません。

引き続き欧州ならびに各国の動向に注目していきたいと思います。

日本核シェルター協会 事務局

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