ウクライナ情勢を受けてスウェーデンで配布開始された「黄色い冊子」とは!? スウェーデンの地下シェルター事情をレポート
(画像引用:スウェーデン民間人非常事態局MSB「In case of crisis or war」よりhttps://www.msb.se/)
2022年のロシアによる侵攻以来、ウクライナ情勢は日増しに激化しておりますが、報道によればウクライナ軍が米国製あるいは英・仏製の長距離ミサイルを使用し、ロシア領内への攻撃を開始したとのこと。当協会のスイス在住の特派員Hans Muller氏のレポートによると、こういった情勢を受けてスウェーデンの民間人非常事態局(MSB)は11月18日より、戦争を含む非常事態に備える冊子の配布を開始したようです。
女性兵士のイラストが印象的な非常事態対応の冊子
ロシアの軍事行動が欧州全体に対する脅威とみなされる中、特に東欧や北欧では安全保障環境が大きく変化しました。ロシア領内への攻撃の増加は、戦争の拡大を引き起こす懸念があり、スウェーデンとしても強い危機感を感じていることが伺えます。印象的な女性兵士のイラストが描かれたこの冊子の電子版は、11月18日、19日の2日間で約55,000回ダウンロードされており、今後は全世帯(520万世帯)へ、2週間以内に印刷版の冊子を配布するとのことです。
配布は16歳以上のスウェーデン全定住者を対象としており、実はこの非常事態に備える冊子の発刊は第二次世界大戦後、既に5版目となるようです。2018年発行の第四版と比べ、第五版はさらに戦争への備えについてページを割いており、戦争を始めとする非常事態にどのように対処するべきか?に言及しています。
地下シェルターへの避難は国民の権利
やはり注目すべきは地下シェルターへの避難についての案内です。現在スウェーデンでは、国内に約64,000ヶ所の地下シェルターがあり、約700万人の収容が可能とされています。これは人口のおおよそ70%をカバーしています。これだけのカバー率であれば、避難先には当然地下シェルターを推奨することになります。
冊子ではこの地下シェルターへの避難について、避難所の位置を確認できるWebサイトを紹介しつつ、国民はシェルターへ避難する権利を有していることを強調しています。また、以前にも紹介したことのある、Civil Defenseを行う団体や避難所を識別するための国際的な標章についても、しっかりと紹介されていました(この標章について詳しくはこちら)。
民間防衛、国民保護を行う団体や避難所を識別するための国際標章
さらに特筆すべきは、平時利用されている地下シェルターであっても、48時間以内に使用できる状態にする義務があることに触れている点です。スイスでは5日間ルールがありますが、既にこれの見直し検討がスイスでも行われていると聞きます。スウェーデンでは、これまでどのくらいの猶予を設けていたか不明ですが、48時間と短い期間に設定されているところを見ると、より合理的なルールで運用されていることが伺えます。
あらゆる人災、天災への対処を網羅
この冊子は他にも様々な点について案内がされています。例えば下記のような項目について、チェックリストを添えながら詳細に説明がされており、非常に理解しやすい内容となっています。
- 避難に関するアドバイス
- テロ攻撃への対処
- サイバー攻撃への対処
- 自然災害へのへの対処
- 止血方法
- 避難に際して支援が必要な人々に対するアドバイス
- 不安とうまく付き合うためのアドバイス
- ペットへの備え (地下シェルターへのペットの持込は禁止)
- 危機や戦争について子どもたちにどのように話すべきかについて
(画像引用:スウェーデン民間人非常事態局MSB「In case of crisis or war」よりhttps://www.msb.se/)
人災、天災にかかわらず、起こり得る様々な有事への対処が網羅されていました。特に印象に残るのは精神面へのケアを重視している点です。特に子供への配慮は確かに難しいところであり、日本でもこれまでの災害時の経験が活かせると思いますので、その経験が多くの人へ共有されることが望まれます。
最後に
以前スイスでも、国民向けにシェルター運用についての小冊子が配布されたことについてお伝えしましたが(過去記事はこちら)、今回のスウェーデンの対応を見ても、日頃の備えに対する意識の高さを強く感じます。この冊子の冒頭では「We must stand united(私たちは団結して立ち上がらなければなりません)」と述べているのが印象的でした。日本もこれまで戦争や多くの自然災害を経験してきましたが、その都度、国民は一丸となって乗り越えてきた歴史があります。しかし、世界情勢の変化や兵器技術の進歩により、また新たな脅威にさらされているのも現実です。
日本政府による公共の地下シェルター整備はまだ始まったばかりですが、こういった啓蒙活動も非常に重要になってくると思います。当協会としましても、本体となるシェルターの整備に留まらず、こういった啓蒙活動にも力を入れていきたいと考えております。