台湾の災害対策に迫る!台北市を中心に防災施設を視察

台湾の災害対策

近年、台湾を取り巻く安全保障環境は緊迫しており、有事のリスクが高まっています。加えて、地震や台風といった自然災害も頻発しており、日本と共通する課題を抱えている状況です。こうした背景を踏まえ、日本核シェルター協会は、2025年4月20日から22日にかけて台湾を訪問し、台北市を中心に行政による災害対策や防災施設の視察を行いました。

今回の視察は、台湾の政府機関ならびに自治体の皆様の多大なるご協力のもとで行われ、現地の高度な防災体制について学びを得る貴重な機会となりましたのでご報告します。

圓山大飯店(グランドホテル)の豪華なロビー

圓山大飯店(グランドホテル)の豪華なロビー

視察の初日は、蔣介石政権時代に建設された避難トンネルがあるという台北市の「圓山大飯店」からスタートしました。こちらは1952年に蒋介石夫人である宋美齡氏が建てたホテルで、台湾を訪れる海外からの国賓をもてなす場として長らく使用されてきました。

避難トンネルは全長80メートルで、地下1階の侵入口から、75段の階段と滑り台が伸びており、滞在中の要人などが緊急時に避難できるよう設計されています。この滑り台を人が実際に滑ることは困難で、荷物運搬用として設置されているようです。出口には両開きの金属製扉があり、開けると剣潭公園へと繋がっています。

後ろからの狙撃対策も兼ねた曲がりくねった設計

後ろからの狙撃対策も兼ねた曲がりくねった設計

壁面には防爆、防音効果を保つための塗料が塗布されているとのことですが、あくまで非常用脱出がメインのため、換気装置や備蓄品などはなく避難場所としては想定されていないようです。しかし、歴史的な背景を感じ取ることができる貴重な施設で、こちらは2019年9月から一般公開されています。

台北市民が防災を学ぶ施設

防災科学教育館
阪神淡路大震災を契機に開館された防災科学教育館

阪神淡路大震災を契機に開館された防災科学教育館(台北市)

続いて訪れたのは「台北市政府消防局防災科學教育館」です。この施設は1995年の阪神淡路大震災を契機に、防災教育の重要性を再認識した台湾政府により設立されました。1999年に正式開館し、市民が防災への意識を高める場として機能しています。

館内には、地震や火災の体験シミュレーターが設置されており、子どもから大人まで幅広く防災を学べる環境が整っていました。こちらの地下1階には、平時は地下駐車場として利用されている緊急避難場所があり、そこには循環型の貯水槽(500名1ヶ月分)や非常用電源室が備えられていました。これらは設置が義務となっているようで、最終日に視察した廣慈社会住宅(公営住宅)にも、同様の設備を確認することができました。

設置が義務付けられている循環型の貯水槽

設置が義務付けられている循環型の貯水槽

今回ご案内していただいた元消防局員の方に、災害時の避難所運営についてお伺いしました。避難時の管理者については、避難人数400人の場合、40人くらいの区役所職員が管理に従事するとのことでした。避難所ではプライバシーが重視され、区画をカーテンで仕切り、食事は時間やエリアごとに分けて行います。また、食事の嗜好、アレルギー等も管理されているそうです。

台北市は12の区から構成されていますが、それぞれに防災公園が設置されていて、一つの防災公園当たり1200人ほどが収容可能とのこと。一般の避難施設は避難期間を1週間としていますが、それを超えると、被災レベルが重い避難者は防災公園に移動となり、最長で3ヶ月の避難が可能とのことでした。なお、ペットについては、諸外国のケースではペットは避難できないことが多いですが、台北市の場合、基本はペットより人命優先としつつも、余裕があれば動物も避難可としているようです。

関連記事:全ての国民が避難できる!「スイスの核シェルター現地情報」~子供たちを守る小学校の核シェルター

システム化された台湾の災害対応組織

今回の訪問では、日本における消防庁に相当する「内政部消防署」をはじめ、台北市、新北市の地方自治体が管轄する「災害応変センター」をそれぞれ表敬訪問する機会をいただきました。台湾では、この災害応変センターが自然災害発生時に即座に開設されることで、中央と地方が連携して統合的に災害に対応する体制が整えられています。

内政部消防署を表敬訪問

内政部消防署を表敬訪問

台北市災害応変センターを表敬訪問

台北市災害応変センターを表敬訪問

新北市災害応変センターを表敬訪問

新北市災害応変センターを表敬訪問

台北市の災害応変センターの場合、平常時は50名(夜間は7名)ほどの職員が24時間体制の監視を行っています。市内には16,000か所もの監視カメラが設置されており、リアルタイムでの情報収集が可能です。緊急発電用の燃料タンクが3日分備蓄されており、自然災害への備えが徹底されています。また、災害アプリ「行動防災」で災害情報の周知も行われています。

大型モニターで詳細情報を把握する(台北市災害応変センター)

大型モニターで詳細情報を把握する(台北市災害応変センター)

台湾は日本と同様に災害が多い国であることから、このように防災体制の強化にかなり重点を置いていることが分かります。ただし、戦争やテロといった有事への対応については軍や警察の所管であり、災害応変センターでは必要に応じて支援を行うとのことでした。

台湾大学附属病院の災害対策

これまでの海外視察では、必ずといっていいほど病院を訪問しておりますが、それは災害時において非常に重要な役割を果たすのが病院だからです。今回は、台北市にある「台湾大学附属病院」の患者収容施設を視察しました。

台湾大学附属病院を表敬訪問

台湾大学附属病院を表敬訪問

こちらの病院の敷地内には、建物とは別に患者収容スペースが確保されており、トリアージも含めて迅速な対応ができるよう機能的な施設配置が施されていました。

建物外の設けられた災害時に対応する施設
建物外の設けられた災害時に対応する施設

建物外の設けられた災害時に対応する施設

原子力災害を想定した設備や機器も整備されており、有事の初動体制がしっかりと構築されていることが確認できました。

関連記事:スイス核シェルターの歴史 第3回~冷戦期から冷戦後へ

防空訓練を行う台湾の小学校

小学校の防災教育も視察することができました。訪れたのは、台北市にある「臺北市大同区大龍國民小學」です。訪問すると子供達がリコーダーによる「涙そうそう」の演奏で出迎えてくれました。創立128年の歴史を誇るこの学校では、児童や教職員、保護者も含めた全体で防災意識の向上に努めており、動画教材を用いた積極的な防災教育が行われています。

校内には防災教室が設けられている

校内には防災教室が設けられている

各教室には少量の備蓄物資があり、さらに災害時には区役所からの補給体制を整えています。特筆すべきは、毎年6月に教育局主導のもと、有事を想定した防空訓練が実施されていることです。また、上級生が下級生に防災についてレクチャーを行うなど、自主的な学びの姿勢が印象的です。緊急時に自分の安全だけでなく、周囲の人への救護活動に貢献する意識が育まれていました。

防災教育について説明を受ける(防空訓練の様子)

防災教育について説明を受ける(防空訓練の様子)

まとめ

今回の台湾視察を通じ、さまざまな角度から災害対策や防災施設、そして運用体制について学ぶことができました。台湾では市民レベルから行政、医療機関、教育機関に至るまで防災意識が高く、整備された体制とその運用力が印象に残りました。一方で、今回視察をすることができた施設には、いわゆる核シェルターと呼べるようなシェルターはなく、一時避難施設と思われるものが主流でした。このあたりは日本と同様の課題を抱えていると感じました。

今後も、国内外の優れた防災事例を参考にしながら、日本における核シェルターの普及と災害対策の強化を図ってまいります。

日本核シェルター協会 事務局

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