スイス訪問記~
2万人収容! 世界最大規模の核シェルター、Sonenberg核シェルター視察レポート

2023年8月2日

先般、当協会の理事長がスイスを訪問しました。アルガウ州の民間人保護組織へのインタビュー以外に、核シェルターの視察も行いました。本日公開する記事は、世界最大規模、20,000人収容の核シェルター、Sonenberg核シェルターの視察レポートです。

世界最大規模2万人を目指してつくられた

スイスには20,000人収容可能な核シェルターが建設されました。ルツェルン州ルツェルン市にあるSonenberg核シェルターです。諸事情があって、いまは2000人収容に縮小され、一部は観光地として開放されていますが、かつては20,000人を収容できる核シェルターでした。

1971~1976年にかけて建設された核シェルターです。全長1,550mのトンネルが南北に二本あり、そこにそれぞれ10,000人ずつ収容し、横に7層(7階)の管理棟を設けた巨大な建築物となっています。

トンネル部分に一区画64人収容できるユニット(シェルター個室)を設けて、それぞれのトンネルの両サイドにシェルター個室が78区画ずつあるという構成でした。(1区画64人×78区画×2=9984人収容×トンネル2つ)冷戦真っただ中に核戦争に備えて設けられた核シェルターです。

スイス核シェルター

南北に連なるトンネル2本

スイス核シェルター

入口

スイス核シェルター

通路も巨大で長い

管理棟には病院や刑務所、クリーニング施設もある!

避難所として20000人収容できるという巨大な仕様であり、管理棟にはコマンド・ポスト(民間人保護組織の駐在所)、調理施設、クリーニング施設、病院(1,2階)、ラジオステーション、刑務所もある。刑務所はシェルター内で悪事を働いた者を収容する刑務所である。治安維持のために警官も常駐するという巨大シェルターである。

当初、この核シェルターの管理・維持のために、700人余りの職員が必要と考えられていた。また、換気装置や発電設備のための機械室として、7階のうち、4階と最上階が割り当てられていたのである。総工費は3250万フラン。連邦政府とルツェルン市が負担した。

スイス核シェルター 刑務所

刑務所

スイス核シェルター コマンド・ポスト

コマンド・ポスト

スイス核シェルター 病院

病院

スイス核シェルター 調理室

調理室

スイス核シェルター NBC対応ガスフィルター

おびただしい数のNBC対応のガスフィルターが整然と並ぶ

スイス核シェルター トイレ

トイレ

だが、しかし…核シェルターが巨大すぎた

核シェルターが完成後、特に避難訓練は行われていませんでしたが、1987年にチェルノブイリ原子力発電所の事故をきっかけに、大規模な演習が行われました。この結果は惨憺たるものでした。トンネルの両端に350トンという巨大な防爆扉が設置されていますが、ひとつが完全に閉まりきらないという問題が発見されました。

また、核シェルターが巨大すぎて迅速な移動ができないという問題も発生しました。先般お伝えしたように、スイスでは非常事態宣言が出てから5日間以内にシェルター内の備品を整えて、シェルターにこもるというルールがあります。しかし、あまりにも巨大すぎるため、演習では目標の25%しか達成できませんでした。20000人分の食糧や水などの備蓄品の運搬や、避難誘導がうまくいかないことが判明しました。

こうした問題が演習の結果判明して、2000人規模のシェルターに削減することが決定されました。Sonnenberg核シェルターは大きな教訓です。巨大なシェルターは技術力があれば造れます。しかし、実際に運用するのは人間になります。シェルターはハードですが、避難やこもった場合の運用を含めた広い意味でのソフトも重要です。

ハードとソフトが一体となって、初めてシェルターは運用できます。スイスでは大規模なシェルターよりも、学校の地下などに数百人が収容できるシェルターがあちこちにあります。この方が大規模シェルターよりも運用しやすいということが判明したのです。

これから日本でもシェルターの整備が進められていくことでしょう。Sonenberg核シェルターの教訓が生かされることを願ってやみません。

日本核シェルター協会
スイス特派員 Hans Muller、事務局

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