スイス核シェルター事情を探る2 – 核シェルター実地調査

2023年4月14日

学校の核シェルターを訪問!

先般、当協会の理事2名が核シェルターの調査のためにスイスに渡航中した。スイスでは、2011年までは新規の建築物には核シェルターの建設を義務付けていた。普及率は人口比で100%を超える。住宅はもちろんのこと、役所、学校、ホテル、商業施設、映画館などに核シェルターが建設されている。今回の実地調査では、個人住宅、共同住宅、学校2件、改修中の病院(野戦病院)の核シェルターを訪問した。

まず大前提であるが、スイスでは政府が核シェルターの仕様を定め、自治体が運用などを管理している。各自治体に核シェルターの運用担当者がいて、たとえば学校などの核シェルターの設備点検を担う。核シェルター内部で使用する機器は軍のテストを通った製品を使用することになっている。

チューリッヒ郊外にある小学校の核シェルターを訪問。

チューリッヒ郊外にある小学校の核シェルターを訪問。

シェルター個室に設けられた換気装置と

シェルター個室に設けられた換気装置。扉の奥は収納スペース。

また、核シェルターの仕様については、地下の鉄筋コンクリート造としている。核攻撃の①爆風(衝撃波)、②熱線(閃光含む)、③初期放射線、④放射性降下物を防ぐための仕様であり、たとえば土被りがこの程度あれば、コンクリート厚は450㎜など、構造が細かく定められている。

一人あたりに必要なスペースや天井高、必要な備品も定められている。1960年代から核シェルターの整備がなされ、1984年に大幅に仕様が変更され、現在最新の規格は2017年に定められ、2021年から施行されている基準になる。

個人住宅

まずはチューリッヒ郊外にあるWidenにある個人住宅の核シェルターを訪問した。地下に続く階段を下りていくと、防爆扉が目に飛び込む。この防爆扉は厚さが200㎜あり、1MN/㎡の衝撃波に耐えられる仕様となっている。防爆扉の奥にシェルター個室がある。スイスでは、個人住宅のような極小規模な核シェルターでは必ずしも気密室、除染室をつくる必要はない。そのため、個人住宅では防爆扉のすぐ奥にシェルター個室が設けられているケースも多い。

チューリッヒ郊外にある個人住宅の核シェルターを訪問。

チューリッヒ郊外のWidenにある個人住宅の核シェルターを訪問。

地下を降りていくと防爆扉

地下を降りていくと防爆扉が設置され、その奥に核シェルターが設けられている。

このあたりは湿潤な(というより亜熱帯化する)日本とは異なり、乾燥した気候なので、結露の問題が生じにくいのだろう。シェルター個室は備蓄品も置かれているが、倉庫代わりに使われていた。シェルター個室の奥には、非常用脱出口と換気装置が設置されている。この仕様は前記したとおり、政府が定めている。

共同住宅

次に日本でいうアパートに設けられた核シェルターを調査した。6世帯が使用する核シェルターが設けられているのだが、スイスではこうした共同住宅にも核シェルターが地下に設けられている。

地下に降りていくと、防爆扉があり、その奥に核シェルターがある。共同住宅でも極小規模タイプの場合、気密室、除染室は設置されてない場合もある。シェルター個室は平和段階では備蓄品を含む物置になっている。

チューリッヒ郊外のWidenにある集合住宅の核シェルター

地下に降りていくと、防爆扉があり、その奥に核シェルターが設置されている。

非常用脱出口

非常用脱出口はトンネルを通って避難坑に接続され、外界に出ることができるようになっている。

空間の構造としては、防爆扉の対角線上の奥側に非常用脱出口が設けられ、非常用脱出口に隣接して換気装置が設置されている。基本的には個人住宅と同様の構造・スペースとなっているが、6世帯用ということもあり、シェルター個室の床面積は広く取られている。

学校2件

学校の核シェルターを2件まわったが、両者ともほぼ似たような造りとなっている。30~40名程度が入れるシェルター個室が複数用意された大規模な核シェルターである。学校ということもあって、管理・運用は自治体の設備担当者が管理を行っている。

両者とも最近建設されたものではないため、最新の規格ではなく、古い指針に沿って建設されているが、基本的な構造や空間配置は最新の規格とほぼ同様である。進入路を抜けると、防爆扉があり、その奥に気密室、さらにその奥には除染室、その奥にベッドが並べられたシェルター個室が設置されている。

シェルター個室には3段ベッド

シェルター個室には3段ベッドが並べられている。

除染室にシャワー、洗面所、トイレ

この学校では除染室にシャワー、洗面所、トイレが設けられていた。

学校の場合、中規模以上のシェルターに相当するため、スイス政府の指針にしたがって、気密室と除染室は分離されている。除染室にはトイレとシャワーが設けられ、トイレは簡易トイレが用意されている。除染室に用意されているシャワーは2週間過ごす間に利用するだけでなく、攻撃段階で核シェルターに入れなかった場合、放射性物質や粉塵などをシャワーで洗い流すことにもなる。

ちなみに、この時石鹸やシャンプーを使用するが、コンディショナー(リンス)は放射性物質が髪に固着してしまうので使ってはならない、と海外の指針には記されていることは知っておいた方がよいだろう。

除染室の先にある耐圧扉を開けると、シェルター個室があり、3段ベッドが並べられている。スイスの中規模以上の核シェルターでは3段ベッドの使用が奨励されている。今回訪問した学校では、ベッドがしっかりと並べられているシェルター個室もあれば、物置代わりに使用しているシェルター個室や、音楽スタジオにしているシェルター個室もあるなど、平和段階での運用は様々だ。

以前は核シェルター内には余計なものは設置してはならないと定められていたが、現在は規則が緩められ、平和段階では音楽室などに使用してよいことになった。ただし、攻撃前段階で不要な物品は核シェルターから排除し、備蓄品を運び入れ、攻撃段階に備えることになっている。

シェルター個室には換気装置が非常用脱出口近くに設置されている。換気装置の吸気は非常用脱出口から取り入れるために、非常用脱出口に近接した配置が推奨されている。収容人数の関係上、床面積やベッド数は異なるが、基本的な構造やスペースの配置はほぼ同様である。

学校の核シェルターに共通しているのは、入口(進入路)につながる防爆扉や除染室からシェルター個室につながる耐圧飛田の裏側に通常の扉が設けられている点である。平和段階では防爆扉や耐圧扉は開けっ放しにして、裏側にある通常の扉を施錠しているとのこと。安全面への配慮といたずら防止の観点からこのような造りになっている。ちなみに、設備管理者の話では、設備の点検は10年に1回行い、毎月1回換気をしているとのことである。

改修中の病院(野戦病院)

改修中ということもあり、野戦病院も調査してきた。通常は使用されず、有事に使用される病院なので、病院全体が核シェルターとなっている。野戦病院というと、負傷者を受け入れる病院を想像するかもしれないが、この病院は負傷者はもちろん受け入れるが、持病を抱え定期的に通院が必要な患者がホームドクターと一緒に有事の際に避難する場所となっている。

現在改修を進めているのは、単なる補修や設備の入替にとどまらず、「最新のテクノロジー」を導入するとのことである。この「最新のテクノロジー」にはさまざまな設備も含まれるが、特に注力しているのは電磁パルス(EMP)対策となる。

というのも、前述したような位置付けの野戦病院なので、コミュニティの人々のカルテが集まってくる場所になるため、大量のデータを使用することになる。そのため、病院の中のデータを取り扱う空間にはEMP対策が必要となる。もちろん、病院全体にもSPDを導入するなど、EMP対策は行うようだ。SPDは現在の核シェルターには必須といってよいだろう。

除染室にはシャワーが設置。

除染室にはシャワーが設置。

病室

通常は使われない野戦病院。

病院ならではの数々の設備

さて、入口を通り、緩やかなスロープを降りていくと、防爆扉が設置されている。防爆扉は大型施設向けの大きなサイズのタイプが設置されている。この防爆扉を抜けると気密室が設けられ、さらにその奥にシャワーが装備された除染室があり、その奥には病院らしく広い通路が設けられていて、左右に入院患者を収容する病室や、調理室、リネン室などが並ぶ。病院ということもあり、発電機が置かれた気密室や、設備機器が設置された気密室が複数並ぶ。

個人住宅や学校などでは、設備といっても換気装置以外には除湿器や簡易トイレ程度しか置かれていなかったが、病院には非常用発電機、空調、衛生設備もしっかりと設えられている。換気装置も大容量の換気量に対応したタイプが複数台用意され、ダクトを通じて各空間に新鮮な空気を送り込むようになっている。

貯水タンク。配管。

貯水タンク(右)が準備され、水を供給する配管(左)は堅牢な防爆タイプ。

非常用発電機

オレンジ色の物体は非常用発電機。

刮目したのは衛生設備である。詳細は画像とキャプションを確認してほしいが、病院の横に貯水タンクが設置されており、有事に上下水道が止まった場合はこの貯水タンクから水を取り入れ、トイレやシャワーに用いて、排水桝に汚水を溜める構造となっている。有事の際の衛生設備が完備されているのは病院ならではなのであろう。なお、有事の際に設備担当者も収容される決まりになっていて、機械設備をそれぞれ3人の担当者が交代制で管理する。

スイスでは、核シェルターというハードウェアを用意するだけでなく、このように運用や、前述した使い方などの避難指針も整備されている。ヒトや法令、運用まで含めた広い意味でのソフトウェアまで完備しているのは永世中立国たるスイスならではである。

日本でもシェルター整備に向けた基本法をつくろうという機運が高まりつつある。シェルター議員連盟の共同代表の古屋圭司初代国土強靭化担当大臣もニュースでそのように伝えている。スイスとはシェルターに関して積み重ねてきた年月は異なるが、日本でもシェルターを含む民間防衛のプログラムを早急に整える必要がある。スイスで調査を重ねて、その想いを強くした。

シェルター議員連盟共同代表の古屋圭司氏のインタビュー記事

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-04-04/RS9WWMT1UM0X01

日本核シェルター協会
事務局

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