家庭用核シェルターの失敗事例5選──独自判断が招いた思わぬ落とし穴
スイスの家庭用核シェルター(ワインセラーとして活用している)
近年の安全保障環境の悪化に伴い、核シェルターの需要が高まっています。実際、日本政府も公共の地下シェルター整備を進めており、民間企業や一般家庭の間でも核シェルター設置を検討する方が増えています。しかし、専門知識を持たないまま進めてしまうと、命を守るはずの核シェルターが「ただの地下空間」になってしまう恐れがあります。
今年で設立22周年となる私たち日本核シェルター協会は、これまで核シェルターの建設にまつわる数多くの相談を受けてきました。その中には、全面的に支援したケースもあれば、簡単な相談程度で終わってしまったケースなど、さまざまです。今回は、事前にしっかりとした相談がないまま計画・施工され、失敗に至った実際の事例を紹介します。家庭用核シェルターの設置を検討される方は、ぜひ参考にしてください。
家庭用核シェルターとは?まずは基本を知る
失敗事例を紹介する前に、まず核シェルターの本質を理解しておくことが重要です。そもそも核シェルターが何を想定して設計されているのかを知らなければ、設備の必要性や、なぜそれが失敗と評価されるのかを正しく判断できません。まず押さえておくべきは、核シェルターが備えるべき「脅威」の内容です。それは主に、以下の4点に集約されます。
核シェルターが想定している脅威
- 爆風・衝撃波
- 熱線・熱波
- 初期放射線
- 残留放射線
最低限これらの脅威から命が守られなければ核シェルターとは言えないでしょう。実際の核シェルターは、地震や風害といった自然災害にも有効ですが、ここでは説明を省きます。
そしてこれらの脅威を防ぐためには、核シェルターならではの求められる構造や設備があります。まず、構造的に必要とされるのが「堅牢性」と「気密性」です。
堅牢な構造でなければ爆風によって壁や扉が破損し、内部の安全を守れません。また、そのために採用される分厚いコンクリートが初期放射線を防ぐ役割も果たします。さらに気密性が不足していると、有害な放射線物質や粉塵が侵入してしまい、シェルターとしての機能を果たせません。
そして重要な設備としては、大きく下記の3つが挙げられます。ここでは、避難生活に必要な設備や災害食・備蓄品はいったん省略します。
核シェルターに必要な設備
- 放射性物質を取り除く「換気装置」
- 爆風や初期放射線を防ぐ「防爆扉」
- 特殊なスリーブやバルブといった「防爆ソリューション」
核シェルターはこれらの設備が備えられていることにより、前述の脅威から身を守ることができるのです。まずはこのことを知っておいて欲しいと思います。その上で、具体的な失敗事例を見ていきましょう。
失敗事例1:空気が漏れる家庭用核シェルター
核シェルターは、放射性物質や粉塵の流入を防ぐために、気密性が求められる空間です。ある新築住宅の地下に建設された核シェルターの話ですが、完了検査時に過圧防爆バルブが作動しないという不具合が発生し、状況確認の依頼が寄せられました。
実際に現地へ赴いて確認をすると、室内が過圧状態にならず、換気装置を稼働させると、空気を排出するために開くはずのバルブが開かない状態でした。調査の結果、床のコンクリートに直径4センチ程度の穴が開けられており、そこから空気が漏れていることが判明しました。
施工責任者によれば、この穴は設計士の指示で結露対策として設けられたものでした。核シェルターにおいて、専用のバルブを使用していない通気口の設置は致命的です。これは核シェルターに関する専門知識を持たないまま、設計が進められたことによる典型的な施工ミスと言えます。
気密性を保つ上で重要となる耐圧扉
失敗事例2:家庭用核シェルターの天敵となる湿度
核シェルターは通常、コンクリート打ちっぱなしで装飾を施さないように仕上げる必要があります。理由の一つには、壁や天井に装飾があると、爆風の衝撃を受けた際に、その装飾が危険物と化して室内で飛び交うからです。そしてもう一つは、カビの存在です。地下室は湿気がこもりやすく、カビが発生しやすい場所です。
ある核シェルターを設置したご家庭の話ですが、事前相談では装飾を施さないようアドバイスしましたが、結局は無機質な空間は好まないということで、壁や床に装飾用のシートを貼っていました。しかし数カ月もすると、コンクリートから放出される水分によりカビが発生し、床の隅から徐々に広がり、壁一面が黒カビに覆われてしまったのです。
また、湿度の高い日本では結露が発生するため、適切な空間設計とエアロック(前室)の設置も求められます。本来エアロックは核シェルターの外部と内部の圧力差の緩和のために設けられますが、これが結露を防ぐ役割も果たすのです。実際にあった事例では、この前室を設けるようにアドバイスしたにも関わらず、個室のみにしたことにより、結露で室内が水浸しとなり、電気系統が故障する事態に至った例もあります。
失敗事例3:換気装置を取り付けるところがない!
核シェルターは、放射性物質や有毒ガスを除去できる換気装置を取り付ける必要があります。次に紹介する事例は、複数の換気装置を導入する予定だった民間の大型施設です。換気装置の取り付け段階で「換気装置を取り付ける壁が存在しない」と空調業者から相談を受けました。
本来、換気装置はシェルターの設計段階で設置する位置を確定し、壁面にスリーブ(配管や機器取り付け用の開口部)を事前に施工しておく必要があります。
しかし、この案件では設計者がスリーブ施工を見落としていたことが原因でした。その結果、換気装置の設置そのものが不可能になるという深刻な設計ミスにつながったのです。
壁面に埋め込まれた防爆仕様の換気バルブ
失敗事例4:家庭用核シェルターと住宅メーカー保証
自宅のお庭に核シェルターを建設したいという方も多いでしょう。そんな時に気をつけたいことの一つが、戸建ての住宅メーカーの保証です。実際にあった事例では、掘込式のガレージを核シェルターの入り口として、通路で接続する計画が進められていました。ところが住宅メーカーから施主に対し「通路が建物の基礎をかすめる設計では建物保証を打ち切る」と通告されてしまいました。
また、室内に「窓のない部屋」を作ろうとする試みについても、同様に保証対象外とされ、工事の継続を断念したという例もあります。
このように住宅保証の維持を理由に核シェルターの設置や改造を断念したケースが、当協会が把握しているだけでも複数件確認されています。こうした事例からもわかるように、事前に専門知識のある設計者が住宅メーカーや工務店との協議を行い、保証内容やその適用条件をしっかりと確認することが重要です。
非常用の脱出口に施されたタラップ
失敗事例5:新築で地下シェルター設置を拒否された事例
新築の場合、核シェルターを後付けで設置するよりも計画を立てやすいと言えるでしょう。ところが地下の設置を希望したものの、住宅メーカーから「地下にシェルターを設けると地上の建物が弱くなる」という理由で却下され、やむなく駐車場の地下に設置した事例があります。
しかし、実際には核シェルターは基礎として地上建造物を支える効果があり、むしろ強固になります。また、地上建造物そのものが遮蔽機能を果たし、放射線防護の効果を高めるため、非常に合理的な設置方法と言えます。
さらに問題なのは、駐車場の真下というのは、ガソリン車両が上部に存在するというリスクがあるため、安全面でも懸念が残ります。こうした誤った理解が、合理的な設計を阻んだ一例です。
後悔しないための施工業者の選び方
これらの失敗事例は、核シェルターの設計・施工に必要な専門知識が不足していたことに起因しています。核シェルターはただの地下室ではなく、さまざまな脅威から命を守るために、設計・構造・設備のすべてにおいて専門性が求められる特殊な空間です。安易な後付けや自己判断での施工は、命を守るはずの空間が、かえって危険を招く結果につながりかねません。
当協会では、国際的に認められたスイスの基準を参考に、日本の気候や生活環境に適した形での運用を目指し、会員企業と連携しながら日々研究を重ねています。シェルター導入をお考えの方には、専門的なアドバイスや施工業者のご紹介も可能です。ぜひお気軽にご相談ください。


