ドイツ連邦政府が100万人規模の地下シェルター建設計画を発表

2025年6月6日、ドイツ連邦政府連邦民間人保護災害支援局(以下、BBK)のラルフ・テイスラー長官が現地メディアの取材に応じ、ドイツ連邦政府が最大100万人規模の地下シェルター整備に乗り出すという方針を示しました。ラルフ・テイスラー長官は「我々はヨーロッパにおける大規模な侵略戦争のリスクを懸念しています」と語り、安全保障環境の変化をその理由としてあげました。
これは本サイトでも先日お伝えしたEUの欧州委員会により発表された「欧州危機対応連合戦略(on the European Preparedness Union Strategy)」と題した、共同声明とも連動する動きと言えるでしょう。
既存地下施設の地下シェルター化を目指す
ドイツにおける整備の主な対象は既存の地下施設です。地下鉄駅、地下駐車場、トンネル、公共施設の地下室など、民間防衛への転用が可能な施設を地下シェルターとして整備することで、短期間での対応を狙うようです。
BBKはこの夏にも詳細な計画を発表予定で、避難時には数日間の滞在を見据え、食料・トイレ・簡易ベッドなどの整備も進める見込みです。今後10年以内に新しいシェルターの建設と、BBKが運営している非常警報アプリ『NINA』を拡充するために、約300億ユーロ(約4兆9,500億円)が必要とされるとしています。
ドイツの地下シェルターの普及状況
2007年以降、連邦政府が公共シェルターの機能維持を停止したため、現在のドイツには、すぐに使用できる状態の避難所はほとんど存在しないとされています。BBKによると、民間人の保護に利用できる可能性のある公共シェルターは全国で579カ所あり、最大で約47万7,593人を収容できるということです。これらの施設の多くは、第二次世界大戦中に空襲から民間人を守るために建設されたもので、鉄道駅や地下駐車場、病院の地下などが含まれています。
このあたりは日本の置かれている状況とかなり異なります。既存地下の利用といっても、ドイツでは過去にかなり整備が進んでいたため、日本のようにシェルター利用を想定していない施設を、いかにシェルター化するかという問題は日本ほど多くありません。なお、ドイツにおける過去のシェルター整備状況を下記に掲載しておきます。
ドイツにおける過去のシェルター整備状況
- 個人住宅施設のシェルター 約9,000カ所(1996年)
※一般の防爆シェルターおよび耐爆風圧3バールのシェルター - 公共シェルター約2,000カ所(2007年)
※核シェルターおよび防爆シェルターを含む
(出典:バンカー・マクナー社)
欧州委員会も危機への備えを強化
冒頭にも触れましたが、欧州全体でも危機対策の見直しが進められています。欧州委員会は、国境を越えた危機に備えるための新戦略を打ち出し、NATO再軍備計画も始動。NATO軍の兵力は30%増強される予定で、ドイツ国防相も6万人の兵士増員が必要だろうと示唆しています。
軍だけでなく、市民の意識改革にも乗り出し、民間防衛政策の強化を進めています。民間と軍の連携を図るための新たな取り決めを策定し、市民が最低72時間、自力で生活できるようにするためのガイドラインも発表しました。
最後に
ラルフ・テイスラー長官は、「ドイツでは長年、戦争はもはや現実的な脅威ではないという認識が広がっていました。しかし、それは大きく変わりました」と述べています。この言葉は、平和を希求してきた我が国にとっても、決して他人事ではありません。当協会としては、すでに動き出しているシェルター整備の流れをさらに加速させ、民間防衛を含む国民保護の取り組みを着実に具現化していくよう、引き続き尽力してまいります。