地下シェルターの酸素はどう確保する?必要な換気や防爆の設備を解説

地下シェルターの侵入路(茨城県つくば市・日本核シェルター協会)
世界情勢が不安定さを増す中、日本でも「自宅に家庭用の地下シェルターを持ちたい」というニーズが高まっており、当協会にもここ数年お問い合わせが増えております。しかし、地下シェルターにはどのような性能があり、どのような設備が必要なのかは、あまり知られていません。本当に安全なのか、密閉空間では酸素はどうなるのか?そういった素朴な疑問も寄せられています。
日本核シェルター協会としては、こうした基本的なことについても情報発信を行っていますが、この記事では、地下シェルターに必要な設備について解説することで、そのような疑問にお答えしていきます。
地下シェルターで防げる被害とは?
まずは地下シェルターが、どのような被害に対抗できるのかを知ることが大切です。それにより、なぜその設備が必要なのかを理解できます。しかし、一言に地下シェルターといっても、さまざまなタイプがあります。今回は当協会のモデルルームにもなっている、グローバルスタンダードなスイス基準の核シェルターで説明していきます。他のタイプの説明については下記の記事をお読みください。
(関連記事:地下シェルターの必要性や選び方、費用を徹底解説)
核攻撃
核シェルターは文字通り核攻撃から身を守るためのシェルターです。分厚い鉄筋コンクリートで覆われた堅牢な構造で、核爆発の際に発生する爆風や熱線、初期放射線からの被害を防ぎます。
水分を多く含むコンクリートは、人体に致命的な影響を及ぼす中性子線を防ぐ効果があります。また、大気や地上に降り注ぐ残留放射線に対しては、高い気密性を保った構造と有害物質を取り除く換気装置で防御します。特に残留放射線が1000分の1まで減衰する2週間という期間は、厳重な安全確保が必要です。
通常ミサイル攻撃
通常のミサイル攻撃であっても地上の構造物は破壊されてしまいますので、地下施設への避難は有効です。実際にウクライナにおいても地下施設に避難することで救われている命があります。しかし、たとえ地下であってもかなりの衝撃が伝わりますので堅牢性が求められます。分厚い鉄筋コンクリートで造られた地下シェルターであれば、より安全性を高めることができます。
(外部リンク:国民保護ポータルサイト「弾道ミサイル飛来時の行動」)
生物・化学兵器
戦争やテロで使用されるおそれのある生物・化学兵器。これにより発生するウイルスや、サリン・VXガスなどの有害物質に対応するには、それらを除去できるフィルターを備えた換気装置が設置された地下シェルターが有効です。このようなシェルターには、高い気密性が求められます。
地震・風害
地下施設は地震に強いという調査結果がありますが、そもそも地上に比べて地下は地震に強いのです。さらに核シェルターは、爆風圧による荷重も考慮して設計された鉄筋コンクリート造であるため、地震による衝撃にも耐えられる構造となっています。そのため、竜巻や台風などの風害から避難する際にも、安全な場所として機能します。
地下シェルターに重要な気密性と堅牢性
前項の説明通り、地下シェルターはさまざまな外力から人命を守ってくれます。その理由として挙げられるのが「堅牢な構造」と「高い気密性」です。堅牢性がなければ、爆風や地震で壁やドアが破損し、内部の安全が保てなくなります。気密性がなければ、有毒ガスや粉塵が室内に侵入してしまいます。そうなれば、このあとご説明する設備をいくら備えたところで、シェルターの壁や扉が壊れてしまえば意味がありません。まずこのことを大前提として知っておく必要があります。
ただし、例外もあります。爆撃の被害を想定していない環境であれば必ずしも堅牢な施設が必要なわけではありません。例えば原発事故を想定している場合や核攻撃が予想されている地点から離れた地域の場合に適したシェルターもあります。放射線の被害だけを防ぐことを目的とした、いわゆるフォールアウトシェルターがそれに当たります。
地下シェルターで必要な設備とは?
それでは、これらの被害に対抗するために、具体的にどのような設備が地下シェルターには必要なのでしょうか?以下に説明していきますが、これらの設備は、地下シェルターが「ただの地下室ではない」ことの代表的な理由にもなります。
CBRNE対応の換気装置
CBRNE「シーバーン」とは、化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)、爆発物(Explosive)を意味します。核シェルターの場合は、これらの有害物質を除去できるフィルターを備えた換気装置が必要になります。この換気装置により、放射線による内部被ばくや、有毒ガスによる中毒を避けることができます。
この換気装置は設計の初期段階から組み込む必要があります。空気取入口や排気口などを適切な壁面に埋め込む必要があるからです。この換気装置の設置により、外気をフィルターで浄化しながら室内へ取り込むことができるのです。

CBRNE対応の換気装置(スイス Andair AG社製)
防爆扉
ミサイル攻撃などにより起こる爆風や熱風は、扉のある開口部から侵入するため、防爆仕様の堅牢な扉が必要となります。と同時に、有害物質の侵入を防ぐために気密性も求められます。
扉のタイプはさまざまですが、通常の進入路用、個室と個室の仕切り扉、非常脱出口用など、用途に合った扉が必要になります。これらは今回設備として取り上げていますが、構造と一体化するものであり、その取り付け方法には高度な技術を要します。

厚さ20cm、重さ約1tの堅牢な防爆扉
防爆ソリューション
ここまで説明してきた通り、地下シェルターには防爆性能や気密性が求められます。そのため、排気口などの開口部や、配管なども防爆仕様にする必要があります。外部と接している以上、そこからも爆風や熱風が侵入してくるため、頑丈で耐熱性のあるバルブやスリーブが求められるのです。また、吸気口や排気口には逆止弁の構造を採用したバルブも必要になります。

スイス Andair AG社製の防爆ソリューション
地下シェルターでの酸素はどうなる?
もうお分かりかと思いますが、結論から言えば、密閉空間となる地下シェルターであっても、基本的に酸素は確保されています。その理由は、有害な外気を浄化する換気装置を備えており、堅牢な壁やドアで守られているため、安全な空気を常に取り込むことができるからです。このような構造から、随時安全な空気を取り入れることができるため、「酸素が無くなるのでは?」という問題は起こらないのです。
もう少し詳しく説明すると、スイス基準の地下型核シェルターでは、「第二種換気方式」が採用されています。この方式では、密閉された空間内が正圧となり、換気装置を作動させるとバルブが自動的に開き、放射性降下物などの有害物質をガスフィルターで除去しながら、安全な外気を室内に取り込むことができます。排気は機械ではなく、自然排出の仕組みになっており、排気口には逆止弁が設置されているため、浄化されていない空気が逆流して侵入することはありません。

スイスの家庭用地下シェルターにある換気装置
このような構造から、随時安全な空気を取り入れることができるため、「酸素が無くなるのでは?」という問題は起こらないのです。
ちなみに、人間には一人当たりに必要な空気の量があります。日本では建築基準法によって一人当たりの必要換気量は20m³/hと定められているため、現状ではこれを元にした設計が必要になります。また、換気装置も製品によって性能が異なるため、それぞれの機種が持つ換気量も計算に入れて計画を立てる必要があります。
運用時の備えも重要
いざ有事になれば、地下シェルター内での生活を余儀なくされます。特に攻撃を受けている段階では、防爆扉を閉めて爆風や熱風などの被害から身を守らなければならず、密閉空間で長期間過ごすことになります。そういった有事での地下シェルター生活を支える設備を紹介します。
蓄電池
地下シェルターは通常の室内と同様に電力会社からの電力を使用できますが、やはり有事になればいつ停電状態になるか分かりません。そうなれば換気装置の稼働は停止します。換気装置の多くは停電に備えて手動で稼働させる機能が備わっていますが、やはり長時間、人間の力だけで回し続けるのは困難なため、蓄電池設備を備えておくべきでしょう。
蓄電池はさまざまな製品が流通していますが、地下シェルターはスペースに限りがあり、火災による逃げ場もないため、コンパクトかつ大容量のもので、発火などの恐れのない信頼性の高い製品を選ぶべきでしょう。
なお、スイスでは大規模な公共シェルターになると自家発電機を備えています。予算に余裕がある場合は、居室とは別に排気システムを設けた個室で、自家発電設備を備えるという方法もあります。

スイスの病院の地下シェルターに備えられた発電機
衛生設備
地下シェルター内の衛生設備として、トイレ、洗面所、シャワーが挙げられます。有害物質を含む外気との接点をなくすことが重要であるため、基本的に上下水道に頼らない設計にしなければなりません。
トイレは排泄物を真空パックにする簡易型で構いませんが、外界に出られないことを考えると、最大限、臭いや菌が漏れないものを選ぶ必要があります。
シャワーや洗面所は大型シェルターであれば貯水タンクや排水ピッチを設けることも可能ですが、家庭用地下シェルターであれば、最近では水循環型のシャワーなどが出てきていますので、そういった持続可能な製品をおすすめします。
まとめ
地下シェルターにおいて酸素を安全に確保するためには、単なる空気の循環ではなく、放射性物質や有毒ガスを除去できるCBRNE対応の換気装置の導入が欠かせません。さらに、外気との遮断を保つには、高い気密性と防爆性能のある堅牢な扉や設備が求められます。
安心を得るには正しい知識と適切な設備選び、そして施工技術が不可欠です。当協会では会員向けに核シェルターのモデルルームや防爆ソリューションの展示を行っておりますので、家庭用の地下シェルターをご検討中の方は一度ご相談ください。