防災の日に考える ー 各国の民間防衛政策と日本が取り組むべきこと

防災の日 シェルター

本日9月1日「防災の日」は、1923年の関東大震災による死者・行方不明者が10万人を超えた未曽有の惨禍を振り返り、その教訓を後世に伝え、災害への備えを見直す日です。近年、地震や津波、台風などの自然災害が相次ぎ、その脅威は一層高まっています。さらに、台湾有事の懸念など我が国を取り巻く安全保障環境も一段と厳しさを増しています。

日本核シェルター協会は、こうした多様な脅威から国民の命を守るため、シェルター整備の重要性を広め、安心・安全な避難環境を日本に根付かせることを使命として活動しています。この日を機に、改めて国民の命を守るために社会全体として取り組むべきことは何か、世界の事例を見ながら考えてみます。

自然災害や有事のリスクが大きいのは日本だけではありません。世界各国でも、国民生活を守るために先進的な防災・民間防衛政策が進められており、シェルター整備や避難訓練など、多様な取り組みが行われています。

台湾で行われる防空訓練

台湾の小学校で行われる防空訓練の様子

台湾の小学校で行われる防空訓練の様子

台湾の小学校では、日本と同様の有事や自然災害のリスクがあることを踏まえ、防災教育が学校全体で体系的に行われています。児童や教職員だけでなく保護者も巻き込み、動画教材を活用した実践的な学習方法が特徴です。

毎年6月には教育局の主導で、有事を想定した防空訓練が実施され、児童たちは自分の安全確保に加え、周囲の人々への救護行動も学びます。また、上級生が下級生に防災知識を伝える取り組みを通じて、自主的に学ぶ姿勢も育まれています。こうした活動により、緊急時に必要な行動力と協力の意識が学校全体に浸透しているのです。

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EUが強化する民間防衛政策

EUの欧州委員会は今年3月、加盟国が直面するさまざまなリスクに対応するため、「欧州危機対応連合戦略」と題した共同声明を発表しました。これは、自然災害やパンデミックに加え、安全保障上の緊張が高まる状況を踏まえ、EU全体で市民の備えを強化することを目的としたものです。

この声明の中で注目したい点は、「備えと回復力の文化を育むには、パラダイムシフトが必要」と強調している点です。つまり、災害や有事への効果的な備えと回復力を高めるには、国民の意識やリスク教育に投資し、抜本的な民間防衛体制の構築が必要だとしているのです。

さらに注目すべきは、市民や企業など民間と行政・軍との連携を強化する方針を定めている点です。有事の際には、社会の重要な機能やサービスを維持できる体制を整え、軍と民間の双方で活用できるインフラや装備を整備し、定期的な訓練を実施するとしています。

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核シェルター先進国スイスの民間防衛

スイスでシェルターの啓蒙活動の一環で配布されている小冊子

スイスでシェルターの啓蒙活動の一環で配布されている小冊子

核シェルターの普及率が100%を超えることで知られるスイスでは、民間防衛の仕組みも体系的に整備されており、世界でも突出した水準を誇ります。

スイスの民間防衛組織は「BABS(FOCP)」と呼ばれ、国防総省の中に置かれています。その活動の幅は広く、自然災害・有事における救護・避難誘導・復旧支援、シェルターの維持・点検、そして建設に関するガイドラインの策定などが含まれます。これに加え、日常的な啓蒙活動も行われており、シェルターについては国民向け小冊子を配布し、その目的や性能、運用方法に至るまで幅広く情報提供がなされています。

出した水準を誇ります。

また、日本ではJアラートが鳴っても避難行動が遅れたり、どこに逃げればよいか分からないなどの問題があります。しかしスイスでは、避難フローがルールとして定められており、取るべき行動と一人一人の避難先が明確になっている点も非常に先進的です。

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一部を紹介しましたが、世界各国では自然災害や有事に備えた取り組みが具体的に進められています。物理的な備えだけでなく、日常的な教育や官民連携の重要性も改めて実感させられます。

スイスでは民間防衛教育の一環として、子どもたちが森の中で木の枝を使ってシェルターを作るプログラムがあります。これは日常からシェルターを身近に感じさせることを目的としており、自分たちのことは自分たちで守るという永世中立国としての揺るぎない覚悟を感じます。

スイスの子供達が森の中に作ったシェルター

スイスの子供達が森の中に作ったシェルター

防災の日を迎え

防災の日を迎え、改めて備えの重要性と日本の現状を見直す必要があります。諸外国と比べても、我が国はシェルター整備や民間防衛体制で大きく遅れを取っていると言わざるを得ません。私たちはこの現状を踏まえ、国民一人ひとりが行動や備えを理解し、実際に有効な活用ができる体制づくりを進めることが急務です。

当協会では現在、自然災害や有事に対応できるマルチハザードシェルターの研究・開発とその基準作りに注力しています。それだけでなく、平時利用も含めた維持・点検、避難フローなど運営の基準整備にも取り組んでいきます。

これを具現化するためにも、政府への政策提言や民間投資の促進を進め、国全体の防災・防衛力の向上に貢献していきます。

日本核シェルター協会 事務局

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